太平洋側に春が訪れた南アメリカ=W杯南米予選に見えた現在の勢力図

“黄金時代”を復活させつつあるコロンビア

コロンビアをW杯出場に導いたペケルマン。監督に就任すると、スタートでつまずいたチームに落ち着きをもたらした 【Getty Images】

 同じく太平洋側に位置するコロンビアもまた、アルゼンチン人指揮官ホセ・ペケルマンの指揮下でかつて世界中を魅了したプレースタイルを取り戻しつつある。

 フランシスコ・マツラナ監督とエルナン“ボリージョ”ゴメスのコンビが率い、カルロス・バルデラマ、フレディ・リンコン、ファウスティーノ・アスプリージャ、レネ・イギータ、ベルナルド・レディン、アドルフォ・バレンシア、レオネル・アルバレス、イバン・バレンシアーノら黄金世代が1990年のW杯イタリア大会、そして1994年アメリカ大会の南米予選で見せた華麗なフットボールは、1994年の本大会での失敗と多くの悲しい事件が生じた後も人々の記憶に焼き付いている(編注:コロンビアは優勝候補に挙げられていたが、ルーマニア、米国に敗れて、グループリーグで敗退。米国戦でオウンゴールを献上したアンドレス・エスコバルが帰国後に射殺されるという悲劇が起きた)。

 当時のチームは現在のコロンビアが目指すべき目標となっているが、そのプレーには違いがある。今のチームは当時ほどの華麗さもスピードもないものの、ショートパスをベースとしたスタイルは同じであり、フアン・クアドラード、カルロス・サンチェス、そしてハメス・ロドリゲスらテクニックに優れた選手たちの正確なプレーによって支えられている。またラダメル・ファルカオ、テオフィロ・グティエレス、ジャクソン・マルティネスらポテンシャルの高いストライカーが前線にそろっているのも特徴だ。

 今回のW杯予選はスタートでいきなりつまずいた。ボリビアとの初戦こそ勝ったものの、翌月のホーム2連戦ではベネズエラと引き分け、アルゼンチンに敗戦。この時点で早くも多くの国民は、今回もまた期待外れの結果に終わるものだと考えていた。何せあの黄金世代が去って以降は新たな世代の台頭がなく、1998年のフランス大会を最後に3大会連続でW杯出場を逃していたからだ。

 レオネル・アルバレス前監督が解任され、状況を変えるべくペケルマンが新監督に就任したのもそのタイミングだった。プレーを急ぎ過ぎるチームに落ち着きをもたらし、テクニックと連携プレーを重視させた指揮官の下、チームは徐々に美しいパスワークを見せるようになっていった。

 そしてチリをホームに迎えた先週、コロンビアは後半25分まで0−3とリードされながら、カルロス・カルモナの退場を機に流れをつかみ、3−3の引き分けに持ち込んで4大会ぶりの本大会出場を決めたのである。

 そのチリもマルセロ・ビエルサの指揮下でベスト16入りを果たした2010年南アフリカ大会に続き、W杯出場を決めた。クラウディオ・ボルギの後を継いだ同じくアルゼンチン人のホルヘ・サンパオリ現監督はウニベルシダ・デ・チレで名を挙げた指揮官で、彼の下“ラ・ロハ”は複数の選手が連動して動くメカニズムを構築。ビッグクラブでプレーするアレクシス・サンチェスやアルトゥロ・ビダルをはじめ、タレント溢れるストライカーのエドゥアルド・バルガス、司令塔のホルヘ・バルディビアらのタレントを生かした好チームに仕上がっている。

絶えず変わり続ける南米の勢力図

 最終節を引き分け以上で終えれば4位以内が決まる立場にあったチリ、エクアドルとは対照的に、ウルグアイは最終的にエクアドルと同勝点で並んだものの、得失点差で及ばずアジア5位ヨルダンとの大陸間プレーオフに回ることとなった。

 オスカル・タバレス率いるウルグアイは予選前半の不調を乗り越え、最終的に近年の定位置と言える立場にまでは順位を上げることができた。彼らが大陸間プレーオフを戦うのはこれが4度目。いずれも最後の最後まで大苦戦を強いられた過去3度のプレーオフではオーストラリアと2度、コスタリカと1度対戦し、2006年のドイツ大会のみ出場を逃している。

 今回のW杯予選ではパラグアイの凋落も目についた。2011年のコパ・アメリカ準優勝を最後に現バルセロナ監督のヘラルド・マルティーノが退任して以降、過去20年にわたり好成績を保ってきた彼らは復調の兆しを見せられずにいる。

 一方、近年急速に力を付けてきたベネズエラは今予選でも健闘したが、ウルグアイとは対照的に重要な試合で勝負弱さを露呈し、結局6位にとどまった。

 ペルーとボリビアは過去数年と変わらず、現在南米で最も組みしやすいチームのままでいる。その証拠に、ペルーは1982年のスペイン大会、ボリビアは1994年のアメリカ大会を最後に、W杯とは無縁の6月を過ごし続けている。

 コロンビア、エクアドル、チリら太平洋側の諸国が力をつける傍ら、ウルグアイはプレーオフに回り、パラグアイは脆くも脱落した。アルゼンチンとブラジルの2強はそのままに、南米サッカー界の勢力図は絶えず変わり続けている。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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