セルビア戦は“ポジティブ”だったのか?=日本代表欧州遠征取材日記(10月11日)

宇都宮徹壱

日本は「相手よりも上回っていた」のか?

けがが完治していない中、フル出場をした遠藤(右)。しかし、コンディションを重視する采配をしてみては…… 【Getty Images】

 試合後の会見に臨んだザッケローニは、このセルビア戦を完敗とは思っておらず、むしろ内容的には「ポジティブにとらえている」ことを強調していた。

「彼ら(セルビア)は欧州では強豪チームに入るし、クオリティーに溢れ、フィジカルと技術に優れた選手がいる。そうした相手に対し、内容で上回ったことについてはポジティブにとらえている。自分たちが高めていかなければならないのは、少ないチャンスでゴールを決めきることだ」

 正直、ザッケローニのこの発言に対しては、いくつも「?」マークが頭上に浮かんだ。記者席で見る限り、日本がとても試合内容でセルビアに上回っているようには見えなかったからだ。本当は、そこのところをもっと突っ込んでみたかったのだが、わずか4つの質問を受け付けて会見はタイムアップ。そこで、セルビア代表のミハイロビッチに、ザッケローニの見解についてどう思うか尋ねたところ、このような答えが返ってきた。

「実際に日本が内容では上回っていたし、選手もよくやっていたと思う。われわれのチームは、まだ成熟したサッカーができない。私が要求しているレベルになれば、日本はもっと大変だったと思うが、残念ながらまだ組織的に日本のレベルに達していない」

 この日のセルビアは、およそベストメンバーとはいえず、キャップ数1桁の選手や、U−21代表から急きょ呼び寄せた選手も含まれていた。コンビネーションの練度という意味では、多分に課題を残すチームであり、それゆえミハイロビッチは日本の組織的かつスピーディーなサッカーに一定以上の脅威を抱いていたようである。その意味では、日本の方向性は決して間違ってはいないし、そこはポジティブに考えてよいだろう。ただしセルビアは、際立った個の力でしっかり対抗しており、さらに相手のミスに乗じて確実に得点に結びつけるしたたかさを持ち合わせていた。そんな彼らを見ていると、悪いなりにも最低限の結果を残すというリアリズムが、今の日本には最も足りていないことを痛感する。

選手選考はコンディションを重視すべき

 だがそれ以上に問題視すべきは、序列を重視するあまり、コンディションの良くない選手をほぼ無条件でスタメンで起用するザッケローニの采配にあると思う。前述したとおり、左足首ねんざがまだ完治していない遠藤を、この時点で90分フル出場させる意味が私にはさっぱり理解できない。一方、所属するマンチェスター・ユナイテッドで出番が得られていない香川については、「代表の試合を通して試合勘を取り戻させたい」という親心もあったのだろう。しかしながら、A代表は育成を目的としているわけでは決してない。

「たられば」の話になるが、今回は長谷部と細貝のボランチコンビでスタートさせて、前半で奮わなかった香川についてはもっと早い段階で乾貴士なり齋藤学なりと交代させるべきだったと、個人的には思っている。少なくとも、コンディションの良くない常連メンバーで引っ張るよりも、よほど有意義なテストができたのではないか。次のベラルーシ戦(15日)では、もっとコンディションを重視し、より多くの選手に出場機会が与えることを望みたい。

 取材を終えてホテルに戻ると、ちょうどW杯欧州予選の模様をテレビで中継していた。最初は、チラチラ見ながら原稿を書いていたのだが、あまりの迫力にしばし見入ってしまった。すでに本大会出場を決めているオランダは、容赦無い攻撃でハンガリーを圧倒。ファン・ペルシのハットトリックを含む8ゴールで、力の差を見せつけた。一方、クロアチアとのアウエー戦に臨んだベルギーは、相手DFをなぎ倒すようなルカクの2ゴールでグループ首位を確定させ、3大会ぶりとなる本大会出場を決めた。

 オランダとは、11月16日にベルギーのヘンクで日本代表との親善試合が組まれており、おそらくその3日後にはベルギーと対戦することになるだろう。セルビア戦の後でオランダとベルギーの試合を見ると、何とも名状し難い無力感のようなものを覚えてしまう。とはいえ、今はまだ遠征の途中だ。次戦に向けて、取材する側も気持ちを切り替えるべきであろう。

 かくして、ノビサドでの取材は終わった。本稿を書き終えたら、私も次の目的地に向かうことにしたい。気候が温暖で人々もやたら親切なバルカンの地から、ガイドブックもない謎に満ちた旧ソ連の小国への移動。日本代表と取材陣にとっては、さらにアウエー感が高まることは間違いないだろう。だが、この過酷な遠征の果てに、来年のブラジルで強豪相手に互角以上の戦いをするためのヒントがあると信じたい。そんなわけで次回からは、ベラルーシの首都・ミンスクから現地の様子と日本代表のレポートをお届けする。

<13日は移動のためお休みします>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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