加藤凌平が世界体操2位で示した光明=内村に続くオールラウンダーの継承者へ

矢内由美子

体操の世界選手権、加藤凌平(写真)の個人総合2位が日本体操界に示したものとは? 【写真:Enrico Calderoni/アフロ】

「ワンツーだったらいいとは言ってきたけれど、それは夢物語だろうという気持ちもあった。だから、実際に表彰台に立ってみると、ニヤケが止まらなかった。有言実行できて良かった」
 ベルギーのアントワープで開催中の体操世界選手権。男子個人総合の争いは、日本の独壇場だった。金メダルに輝いたのは、男女を通じて史上初の4連覇となった五輪チャンピオンの内村航平(コナミ)。そして、表彰台の2番目に高い位置には加藤凌平(順天堂大)が立った。

加藤を2位に導いた2つの鍵

 ワンツーフィニッシュ。表彰式では日の丸が2つ並んで揚がり、場内に「君が代」が流れた。花束を手に、端正な顔をほころばせる加藤。それは、体操ニッポンが最も大切にしてきたオールラウンダーの継承者がここに誕生したことを示す姿だった。

 3位で通過した予選から、1つ順位を上げることに成功した。鍵を握ったのは、最初の種目のゆかだった。
「最後の着地まで止めることができた。あの着地があったからこそ、6種目とも最後まで良い演技ができたのだと思う。気分が高まり、やってやろうという気持ちになった」

 そして、もうひとつの鍵は、1種目ごとに得点や順位を子細に確認しながら演技をしたことだ。
 自身の順位の上下動や、別の組にいるライバルたちの動向を確認する作業は、得てして精神面の崩れにつながりやすい。例えば内村は、「自分の演技に集中するために、周りの点もまったく見なかった」と話していた。
 ただ、加藤の場合は、僅差で競う相手が何人もいる。リスクを覚悟で大技を入れるべき状況も、ミスをしないことを優先させるべき状況もあり、ときには演技直前に構成を変える必要が出てくることもある。

 メンタルの強さを試される戦い。加藤は最初のゆかで3位スタートを切ると、種目ごとに2位と3位を行き来しながらも、淡々と演技を続けた。
 4種目の跳馬では、予定していたDスコア6.0のロペスを、Dスコア5.6と難度の低いドリッグスに急遽変更。無難にまとめて3位をキープした。
「ロペスはトレーニングでうまくいかなかったのと、他の選手との点差を見て、ここはドリッグスでまとめた方がいいと判断した。今回は不思議と落ち着いていて、順位に左右されずに演技ができた」
 冷静な判断で難所を乗り切ると、5つめの平行棒で2位に浮上する。最後の鉄棒でもミスなくフィニッシュ。3位に追い上げてきたファビアン・ハンブッヘン(ドイツ)に0.7差で銀メダルを獲得した。

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著者プロフィール

北海道生まれ。北海道大卒業後にスポーツニッポン新聞社に入社し、五輪、サッカーなどを担当。06年に退社し、以後フリーランスとして活動。Jリーグ浦和レッズオフィシャルメディア『REDS TOMORROW』編集長を務める。近著に『ザック・ジャパンの流儀』(学研新書)

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