ももクロ百田夏菜子は、長嶋茂雄である=演出家・佐々木敦規氏インタビュー
「愛情と熱が凄い。PRIDEと同じ」
佐々木氏は、PRIDEが大きくなっていった当時の空気が今のももクロの現場にはあると話す 【スポーツナビ】
「おっしゃる通りですね。僕はPRIDEの現場にもいたんですけど、PRIDEがこう上へ、上へ上がっていくときのスタッフの空気が、今のももクロの現場とすごくよく似ているんです。あの当時、PRIDEが大きくなっていく過程を見てきたんですが、たとえば電飾だとか照明だとか音響だとか映像だとかの、この歯車が1つの大きなものになっていくんですけど、1つ1つのスタッフの熱がすごかったんですよね。普通、ひとりが100を持っていたとしたら、その人がやるのは100なんですよ。でも、あの頃は違ったんです。100持っている人は120、150、200を目指していたんです。どうしてかというと、PRIDEを大きくしたいから。PRIDEを世界一の格闘技イベントにしたいという熱をみんな持っていた。うわぁ、この現場すごいなぁと思いましたね。
当時のK−1もそうだったんですけど、そういう熱をみんな持ってたんですよね。でも、特にPRIDEがすごかった。PRIDEの伸び方がハンパなかったから、これは凄いなって。やっぱりスタッフが真剣にコンテンツを愛すると、こういう相乗効果になるんだなと。もちろん自信もありますよ、それこそ“PRIDE”ですよ。要は俺たち日本一のものを作っているんだ、だから負けられない、だからやろうぜというね。無い知恵を絞り出して、むちゃくちゃ創造していくわけです。それで、今、近いんですよ、ももクロのスタッフが」
――全盛期のPRIDEの雰囲気が現場スタッフに出ていると。
「愛情が凄い。100ある技術を120、150にして、新しいものを開発して200にするとか、それは物凄く助かってます。そういう熱がね、PRIDEと同じなんです」
――この熱をどんどん大きくしていきたいですね。
「そうですね。僕としてはそれをなるべく長いこと続けていきたいですね。やっぱり、ファンの愛と、スタッフの愛って大事だなって。ファンの愛がもちろん一番大事なんですけど、スタッフの愛もそれに欠かせないくらい大事なんだと思いますね。100持っている力を200まで生ませるのは、コンテンツの力だから。ももクロの場合、コンテンツは何かと言うと、彼女たち自身だから」
「夏菜子は単純にアホなので、愛すべきアホなので」
「ええ、人間力でしょうね。だから、この子たちのためにいっしょに頑張りたいっていうスタッフがいますし、人づきあいの原点の話になっちゃうんですけど、本当に素朴で素敵な子たちなので、その子たちにたくさんの愛をスタッフが捧げているのは事実なんですよね。ももクロのスタッフはむちゃくちゃコンテンツに愛を持ってくれているから、僕が演出家として考えている以上のアイデアをくれるし、そういうものがクリエイティブの中で色んな発想を生む。それぞれのプロが、こういう電飾があるんですよ、エスカレーターとかクレーンとかでこういう機構があるんですとか、こういう新しいレーザー光線があるんです、こういう特効があるんです、こういう爆発ができますよとか、どんどんアイデアをくれる。そうすると、そりゃあ面白いものができますよね。僕だけの発想ではないですから」
――そうですね。今の佐々木さんの“愛”という言葉を聞いて思ったんですが、春に発売されたセカンドアルバム「5TH DIMENSION」の新曲から、まず「Neo STARGATE」のPVが公開されて、「コードは『愛』だ」というテーマがまず印象に残りました。今思うと、佐々木さんがおっしゃられるスタッフの愛情とかも、このテーマに隠されていたのかもしれないですね。
「もしかしたら、そうかもしれないですね。そういう何か、必然的につながっていく何かがももクロにはあるんですよね。だから、紙のプロレス的なものに近いものってあるんですよ。みんなで飲みながら話し合って、あれはこうだったんじゃないの、あれはああいうアングルなんじゃないの、というようなことがももクロでは多いというのを結構聞くんです」
――はい、まさしく、僕ら会社のモノノフ仲間とももクロちゃんの話をするとそうなります。どこまでが本当でどこまでが演出なのか。
「そうそう、そうですよね」
――たとえば、5月にあったファンクラブイベントで、僕が行ったのは百田監督の回だったんですが、そこで百田監督は休憩なしの8曲連続をブッ込んできたんですね。それで8曲連続セットリストの理由を、佐々木さんが撮られた『ももクロChan』では百田さんは『休憩入れるのを忘れてた』と言っていたんですが、Quick Japanさんのインタビューでは『大人が私たちに遠慮してそういうことを言えないから、だったら私たちがやるしかないでしょ?』というようなことを言ってるんです。だから、いったい何が真実なのかと……
「ハハハハハ(笑)」
――ほかにも、同じく百田監督演出のライブで、『走れ!』と『Chai Maxx』を最初とアンコールで2回ずつ入れたのは、単純に最初に入れていたのを忘れていたからなのかなとか、いろいろあるんですよね。ですから、まさにこれが“ファンタジー”というんですかねぇ。
「それはファンタジーですねぇ(笑)。それらの真相は僕も分からないですけど、でも川上さんがファンタジーを好きだから、川上さんが入れてきてる部分もあると思うんです。でも、夏菜子自身が単純にアホなので、愛すべきアホなので、本当に忘れちゃってる可能性も高いだろうし(笑)。でも一方で、冒頭にも言いましたけど『失敗がないと成長がないじゃん』って普通に言っちゃう子だから、二面を持っているんですよね。本当に分からない。そこどうなんだろう?って考えるのは、非常にプロレスに近いですよね」
――百田さんに限らず、他のメンバーの方もどこまでが本当で、どこまでが演出で、という面がありますし、全部が本当のことなんだとも思えますよね。
「ですから、そういうグレーなところで遊ぶ感じというか、何かドキドキする感じがプロレスに近いから、それはももクロがこれからも大事にしていった方がいいんじゃないかなと、勝手に思っていますけどね」