「勝てないエース」ダルビッシュ、それでもサイ・ヤング賞の可能性は?

スポーツカルチャー研究所

圧倒的なパフォーマンスと、伴わないチームの勝利

現地時間9日のパイレーツ戦、7回1失点と好投するも味方打線の援護がなく、8敗目を喫したダルビッシュ。リーグ屈指の“無援護投手”として、現地メディアからも擁護の声が挙がっている 【写真は共同】

「ダルビッシュのサイ・ヤング賞獲得を、チームメートたちが全力で阻止しようとしている」

 現地時間9月9日(日本時間10日)のピッツバーグ・パイレーツ戦後、ダラス地元紙『スター・テレグラム』のコラムニスト、マーク・エンゲル氏は、皮肉混じりにつづった。テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有はこの試合、7回1失点と好投するも味方打線の援護なく、今季3度目となる「0−1」のスコアで惜敗した。

 今季のダルビッシュが、サイ・ヤング賞候補にも名前が挙がるほどのパフォーマンスを見せていることは周知の事実だ。9月12日(同13日)時点で28試合に先発し、防御率2.84(リーグ2位)、被打率.191(リーグ1位)、そして246奪三振(両リーグ1位)。ピッチングのクオリティーを示す各指標で軒並みリーグトップ5にランクインしている。

 その一方で、12勝(8敗)はリーグ12位タイに過ぎず、19勝を挙げているトップのマックス・シャーザー(デトロイト・タイガース)に7勝差。さらに驚くべきは、ダルビッシュが先発した試合におけるレンジャーズの戦績が、14勝14敗の勝率5割に過ぎないことだ。ちなみにダルビッシュ以外の投手が先発した日、レンジャーズは67勝50敗の貯金「17」である。

 敵軍のファンをも唸らせる圧倒的なパフォーマンスと、伴わないチームの勝利。ダルビッシュのメジャー2年目は、その二面性が際立つシーズンとなっている。

リーグ屈指の“無援護投手”を地元メディアは擁護

 ダルビッシュは今季、開幕から9先発で7勝(1敗)を挙げるロケットスタートを切ったが、5月下旬を境に突如勝てなくなった。今季最初の9試合とその後の19試合の成績、および1試合当たりのランサポート(味方打線が9回あたり平均何得点してくれたかを示す数字)を見比べれば、何が起きているかは一目瞭然だ。

4月2日〜5月16日(9試合):7勝1敗、防御率2.97、1試合あたりのランサポート7.2得点
5月21日〜9月9日(19試合):5勝7敗、防御率2.79、1試合あたりのランサポート2.9得点
※すべて現地時間

 9戦で7勝を挙げた5月16日(日本時間17日)までは7.2点あった1試合あたりのランサポートが、以降の19試合で2.9点にまで激減。その結果、5月21日(同22日)以降はそれ以前より優れた防御率をマークしているにも関わらず、5勝7敗と負け越している。味方打線の援護に恵まれなくなったことが、そのまま勝敗に直結している。

 先発した試合におけるチームの戦績に至っては、5月16日(同17日)までの9試合では8勝1敗だったのに対し、5月21日(同22日)以降の19試合では6勝13敗。最初の9試合で、今季の勝ち運を全て使い果たしてしまったかのようだ。

 野球を統計的に分析するセイバーメトリックスが成熟した今日、アメリカでは「投手の実力と勝敗は関係ない」という考え方が浸透している。勝敗は味方打線の得点力に大きく左右されるためだ。そのため、防御率やWHIP(1イニングあたりに許すランナーの数)、あるいは奪三振数や四球数などが投手のパフォーマンスをより正確に表す指標と考えられている。

 こうした背景もあり、「勝てないエース」になってしまったダルビッシュを、現地メディアは概ね擁護、もしくは同情のまなざしを向けている。

 米スポーツ専門局『ESPN』電子版のトッド・ウィリス記者は、0−1で敗れた今月9日のパイレーツ戦後、「ダルビッシュに敗戦の責任を問うな」と、エースを援護できない打線に奮起を促した。また、冒頭でも紹介した『スター・テレグラム』のマーク・エンゲル氏は、ダルビッシュは今季のピッチング内容であれば「最低でも18勝はしているはず」と主張する。『CBSスポーツ』のライター、マット・スナイダー氏も「ダルビッシュとハードラック(不運)な敗戦」と題したコラムで、1シーズンに「0−1」のスコアで敗戦投手になった試合が今季のダルビッシュより多い投手は、メジャーの歴史でも8人しかいないことを指摘した。

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