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ナダル、成功の鍵は“アグレッシブ”
賞金360万ドルは努力と勇気の対価

37回目の対戦を制してV

ケガからの復帰後、ナダルは“アグレッシブ”を追い求め、勝利を重ねてきた。全米オープンでもその姿勢を貫き、頂点に立った
ケガからの復帰後、ナダルは“アグレッシブ”を追い求め、勝利を重ねてきた。全米オープンでもその姿勢を貫き、頂点に立った【Getty Images】

 ニューヨークの夜をエキサイトさせた“ビッグ2”による全米オープンテニスのファイナル――ノバック・ジョコビッチ(セルビア)とラファエル・ナダル(スペイン)の通算37回目の戦いは、3時間21分の攻防の末、ジョコビッチのフォアハンドがネットに遮られて幕を下ろした。これでナダルの22勝15敗。37回の対戦回数はかつて双頭と呼ばれたナダルとロジャー・フェデラー(スイス)が戦った31回をとっくに超えており、時代をさかのぼっても、これまでタイだったイワン・レンドル(旧チェコスロバキア)対ジョン・マッケンロー(米国)を抜いての単独記録となった。グランドスラムの決勝に限れば今回が6回目で、ナダル対フェデラーの8回にはまだ及ばないが、それを抜くのも時間の問題だろう。


 ナダルとフェデラーがそろって2回戦までに沈んだウィンブルドン、その決勝を戦ったアンディ・マレー(英国)とジョコビッチに「新たな2強時代」を予感する声もあったが、それをあざ笑うようにナダルはその後もウィンブルドン前と同様に勝ち続けた。


 今季出場した13大会のうち、1回戦負けを喫したウィンブルドン以外はすべて決勝に進出。そしてこの全米オープンが10回目の優勝だ。過去には、例えばジョコビッチが無敵を誇った2011年に同じような独走状態があり、全米オープンまで12大会中11大会で決勝進出、10大会で優勝した実績を誇る。フェデラーが13大会中12大会で決勝進出、うち8大会で優勝したのは06年のことである。しかし、今年のナダルが特異な点は、それがブランク明けから始まったということだろう。

パーフェクトな状態での復帰が奏功

 昨年のウィンブルドン2回戦で敗れた後、左膝のケガで7カ月もの間、戦列を離れた。全米オープンもツアーファイナルも全豪オープンも欠場し、帰ってきたのが2月のチリの大会。そこでいきなり決勝に進出する。タイトルは逃したが、翌週のサンパウロでは優勝を果たした。


 休んでいる間に一体どんな極秘トレーニングをしたのだろう、と探りたくなるが、ナダルは「練習は何も変えていない。ただ、メンタル的にもう少しアグレッシブにプレーしようと努めただけだ」と言う。今大会中、ナダルは頻繁に「アグレッシブ」という言葉を使っていたが、それが成功のキーワードだった。


「精神的にアグレッシブであること」を実践するため、まず復帰明けのスケジュールが周到だったと言える。全豪オープンで復帰という予定を修正し、よりパーフェクトな状態に体を戻しての復帰だった。

「勝つかもしれないし、負けるかもしれない。でも確かなことは最高の体の状態で練習できること、持てるすべてを出して戦えることだ」


 これを糧に、まずはツアーの中で最も格の低いATP250の大会に2つ続けて出た。自信を取り戻すために必要なものは勝ち星の数だという確信があったからだろう。トップに勝たなくてもいい。とりあえず誰かに勝って自信をつけるのだ。最初の2大会の対戦相手8人は全員が世界ランク20位以下だった。

 かつて同様に膝の故障で2カ月休んだときの反省があったのかもしれない。あのときはマスターズシリーズのビッグ大会で復帰し、そこからツアー優勝まで8カ月を要してしまった。

リスク背負い攻撃的なテニスを追求

 次に、アグレッシブなプレーとは何か。具体的な例を挙げるなら、ひとつはベースラインから後方に下がりすぎないということがある。速い攻撃を仕掛けやすく、ネットに出るタイミングも見い出しやすい。

 ただし、攻撃的なテニスにはリスクが伴う分、勇気がいる。信念がいる。自信がいる。

「良いプレーができているときはもっとアグレッシブになれるし、そうじゃないときはアグレッシブでいるのが難しい」とはナダル自身の言葉だが、ジョコビッチとの決勝戦は、まさにアグレッシブさの力関係が大きな波のように寄せては返す……そんな試合だった。


 それは彼らの対戦の歴史のようでもあった。

 2人の最初の対戦は06年の全仏オープンで、それから09年の途中まではナダルが14勝4敗と圧倒。それから昨年の全豪オープンまではジョコビッチが10勝2敗と逆襲する。そこには3つのグランドスラムを含めたジョコビッチの7連勝も含まれ、ナダルにとっては最も屈辱的な時期だった。しかし昨年のクレーシーズン以降ここまで、また6勝1敗とナダルが優位に立った。


 かつてフェデラーとも似たようなライバル関係を築いた。自分の上に誰かがいれば、追いつきたい、負けたくない……そんな純粋な思いがナダルの限界を何度も押し上げる。

「僕はポジティブな男だからね」

 2013年のチャンピオンズレースをぶっちぎる王者は、そう言って少しやんちゃな笑顔を見せた。


 この夏、全米シリーズも制したナダルがそのボーナスも含めて全米オープンで手にした賞金は360万ドル。日本円にして約3億6000万円……。“アグレッシブ”を追い求めた努力と勇気の対価である。


<了>

山口奈緒美

1969年、和歌山県生まれ。ベースボール・マガジン社『テニスマガジン』編集部を経てフリーランスに。1999年より全グランドスラムの取材を敢行し、スポーツ系雑誌やウェブサイトに大会レポートやコラムを執筆。大阪在住。

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