南米王者によって可視化された日本の弱点=ザッケローニは守備の改善に着手するのか

宇都宮徹壱

宮城にやってきた「ガチの」ウルグアイ代表

スアレス(白)を封じることができず、2失点に絡んだ吉田(右)は、途中交代を余儀なくされた 【Getty Images】

 宮城スタジアムで日本代表戦が開催されるのは、2002年ワールドカップ(W杯)以降、今回がやっと3回目である。最初は05年9月7日のホンジュラス戦(5−4)、そして09年10月14日のトーゴ戦(5−0)。2試合とも、日本が5ゴールを挙げる大味な試合だった。そんなに点が入るのなら、なぜ02年W杯の雨のトルコ戦(0−1)で、あれほど1点が遠かったのか、などと詮なきことを考えたくもなる。もっとも、今回の相手は南米チャンピオンのウルグアイ。これまで以上に引き締まった展開が期待できそうだ。

 先に発表されたウルグアイの招集メンバーを見て、にわかに胸の高まりを覚えた。フォルランがいる、スアレスがいる、ロデイロがいる、ルガノがいる。残念ながら昨シーズンのセリエA得点王となったカバーニは「筋肉系の負傷のため」(タバレス監督)招集メンバーから外れてしまったが、それでも先のコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)の登録メンバー23名のうち、実に16名が長い長いフライトを経て日本までやって来たのである。来日メンバーがたったの14名で、しかも聞いたことのないようなマイナーなクラブでプレーする選手ばかりで構成されていた09年のトーゴ代表と比べると、何やら隔世の感がある。

 今回のウルグアイの日本遠征には、日本のいちサッカーファンとして、非常に感謝の念を禁じ得ない。と同時に、彼らはなぜこのタイミングで、日本との1試合のためだけに、わざわざ地球を半周してきたのかという疑問も湧く。その理由について、06年からチームを率いている名将タバレス監督は、試合前日の会見でこのように説明していた。

「残念ながらわれわれは、南米予選で現在難しい状況にあり(9チーム中5位)、その意味では日本から学ぶことが多い。9月にわれわれは非常に重要なペルー戦を控えており、今回の親善試合では多くの収穫があることが望ましい。(中略)明日の日本戦で起こるすべてのことが、情報としてわれわれチームスタッフの参考になるだろう」

 確かに彼ら自身、尻に火がついた状態であるのは間違いない。しかし一方で、最近の日本サッカーの成長と進化を率直に認め、強化試合の相手にふさわしいと考えたからこそ、彼らは今回の強行日程を決断したのである。8月のFIFA(国際サッカー連盟)マッチデーは、欧州リーグが一斉に開幕するタイミングであるため、相手チームのモチベーション維持に左右されることが多い。とはいえ今回のウルグアイであれば、その心配もないだろう。実際のところウルグアイは、われわれが想像する以上に、その底力をあますところなく披露してみせた。

いつの間にか守備陣のサバイバルへ

 さっそく、この日の日本代表のスタメンから確認したい。GK川島永嗣。DFは右から内田篤人、吉田麻也、今野泰幸、酒井高徳。中盤は守備的な位置に遠藤保仁と長谷部誠、右に岡崎慎司、左に香川真司、トップ下に本田圭佑。そしてワントップは「東アジア組」で唯一のスタメンとなった柿谷曜一朗である。「疲労感が抜けていない」(ザッケローニ監督)長友佑都の代わりに酒井高が入ったのは想定内。ワントップについては、今回は前田遼一もハーフナー・マイクも招集を見送られたため、期待の柿谷が抜てきされた。

 このウルグアイ戦における、ザッケローニの意図は明確だった。先の東アジアカップで、急造チームながら3ゴールを挙げ、前田ともハーフナーともタイプの異なる特徴をアピールした柿谷は、攻撃の新たなオプションとなり得る可能性を十全に秘めていた。もちろん当人も、指揮官の期待に応えようと懸命にプレーしていた。ところが日本は、前半に立て続けに失点を重ねたことで、結果として当初のプランは一気に迷走することとなる。
 
 前半27分、ゴディンが自陣左サイドでクリアしたボールに、前線で待機していたスアレスが一気に加速、ラインを高く設定していた吉田は置き去りにされる。今野、酒井高も必死で戻るが、スアレスはGK川島の動きをしっかり見極め、中央に走り込んできたフォルランにラストパス。これを頼れる10番が冷静に決めて、ウルグアイが先制ゴールを挙げた。その2分後には、フォルランが直接FKを豪快にたたき込んで点差を広げる。

 エンドが替わった後半7分、右サイドを駆け上がったマキシミリアーノ・ペレイラのクロスを吉田がクリアするものの、ボールは中央で待ち構えていたスアレスに渡り、そのまま3点目を献上。2分後に香川のゴールで日本は1点を返すが、その直後のタイミングで日本ベンチは最初のカードを切る。何と、吉田に代えて、伊野波雅彦。交代カードの1枚目が、負傷したわけでもないセンターバック(CB)の交代に用いられる――。この事実にこそ、現在の日本代表が抱える問題点が集約されていたように思えてならない。

 後半11分の時点で吉田をベンチに下げた理由について、ザッケローニは「伊野波を見たかったからだ。吉田はプレシーズンで、90分間は無理だろうと思っていた」と語っている。だが私には、とてもプランどおりの交代には見えなかった。確実に言えることは、攻撃のオプションを増やすはずだったウルグアイ戦は、この吉田の交代によって、いつの間にか守備陣のサバイバルへと変ぼうしていったという事実である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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