400リレーの快挙に見た男子自由形の未来=萩原智子の世界水泳2013
標準記録を切れず「また世界が遠くなった」
4月の日本選手権の50メートルで日本新をマークした塩浦。6月の欧州GPで世界のスピードと技を体感してから、今大会に臨んだ 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】
国際大会の経験が少ない自由形短距離選手たちにとっては、大きな目標とモチベーションアップにつながった。しかし北京五輪、ロンドン五輪ともに派遣標準記録を突破することができず、ロンドン五輪にいたっては100メートルへのエントリーもなし。世界舞台は夢へと消え去ってしまった。「また世界が遠くなった」とも酷評された。選考レース後、スイマーたちの憔悴(しょうすい)し切った表情が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。
これまで世界の大舞台へ立つチャンスを勝ち得られなかった男子自由形短距離陣。その結果が、大きな足かせになっているかもしれない。自由形短距離選手は、他の種目に比べ、海外経験が少ない。海外選手との交流やレース経験が乏しいため、世界との差を肌で実感することもできないのが現状だ。
他種目では、北島選手をはじめ、松田丈志選手(コスモス薬品)や入江陵介選手(イトマン東進)など、世界のトップ選手が日本国内に存在するため、同種目の選手たちは大きな刺激を受ける。では、自由形ではどうか。当然のことながら存在していない。
私も現役時代、自由形短距離で勝負をしていたが、世界のトップスイマーとのレース経験が乏しく、刺激が少なかった。国内で開催されたジャパンオープンでは、肩を並べて泳ぎ、世界トップ選手との差を見せつけられショックを受けた。しかし隣で泳げるチャンスがあったことで、何度もビデオを見直し、海外選手と比較、研究をし、フォーム改造などに役立てた経験がある。
バルセロナでの経験を未来につなぐ
今回の世界選手権決勝の舞台で、世界基準を心身ともに感じ取った彼らには、今後、大きな役目が待っている。日本水泳界のためにも、日本自由形陣のためにも、もちろん自分自身のためにも、今回の経験を今後に生かしてほしい。そして後輩たちへ伝えてほしい。
自由形短距離陣にとっての長年の夢。日本で観戦していた自由形選手たちも、皆、同じ夢を胸に刻んだはずだ。3年後のリオデジャネイロ五輪では、「自由形種目でもメダル獲得」を目指している日本水泳。男子4×100メートルフリーリレーでの五輪決勝進出は1968年メキシコ五輪以来、さらに男子100メートル自由形の五輪決勝進出となれば、1956年メルボルン五輪以来となる。
今後、リレーでの国際大会派遣を目指すのではなく、リレーはもちろんのこと、個人種目での国際大会出場、さらには決勝の舞台でメダル争いを繰り広げる青写真を描き突き進んでほしい。今回、歴史的な第一歩を経験し、夢が目標に変わったはずだ。これまで何度も悔しさを味わってきた彼らに、もう迷いはない。悔しさを最高のエネルギーに変えて、日本自由形短距離選手たちが、新しいスタートを切る。未来に向かって。
<了>