ブラジル完勝で見えたスペイン攻略法=明暗分けたサイドの攻防とコンディション

後藤健生

不運の矢面に立ったアルベロア

不運の矢面に立ってしまったアルベロア(赤)。サイドの攻防で劣勢を強いられ、前半で交代させられた 【Getty Images】

 現地時間6月30日(日本時間7月1日)に行われたコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)決勝は、開催国のブラジル代表が世界王者のスペイン代表に3−0で勝利し、大会3連覇を飾った。
 
 面白かったのは、レアル・マドリーとバルセロナのサイドバックが、両チームに分かれてプレーしていたことだ(マルセロとアルバロ・アルベロアがレアル・マドリー。ダニエウ・アウベスとジョルディ・アルバがバルセロナ――つまり、チームメート同士が同サイドで対決するわけだ)。

 そして、そのサイドの攻防が明暗を分けた。
 原因は、スペインの両サイドMFのペドロとファン・マタがどういうわけか低い位置にいたことだ。フェルナンド・トーレスをワントップ。シャビとアンドレス・イニエスタがまるでシャドーストライカーのような位置にいて、ペドロとマタはシャビ、イニエスタより低い位置にいた。

 ブラジルのサイドバックは、それに付け込むかのように、やすやすと高い位置でプレーできた。ブラジルは、わずか2分で先制した。右のフッキのクロスにネイマールがからみ、アルベロアに当たったボールがフレッジの前に落ちるというやや幸運なゴールだった。

 スペインの両サイドアタッカーの位置が低かったため、サイドの攻防でブラジルが優位に立った。それは、サッカーのロジカルな側面だ。だが、ゴールというものはしばしばロジカルよりも「運」に左右される。この場面もそうだ。そして、不運の矢面に立ったのがアルベロアだった。
 アルベロアの不運はこれで終わらない。10分、ネイマールが入れたクロスがアルベロアに当たってオスカルの前に。この場面ではオスカルのシュートが左にそれてくれたのだが……。

 そして、前半終了間際にはアルベロアのミスパスが高い位置にいたマルセロに渡って、マルセロがドリブルでペナルティーエリアに迫るという場面があった。まるでこの試合の流れとアルベロアの不運を象徴するような場面だった。そして、その直後にアルベロアのサイドを破られて、ネイマールの追加点が決まり、アルベロアはハーフタイムで交代を命じられてしまう。

 後半の、またも2分。ブラジルのフレッジがダメ押しとも言える3点目を決めた。これも、中盤にまで進出していたマルセロがボールを奪ってオスカルにつないだところからの得点だった。最後まで、サイドバックの攻防の優劣が勝敗を分けたのだ。これで、試合の流れは完全にブラジルである。

新しい戦い方を準備する必要がある

 ただ、唯一スペインにとって付け込む隙があったとすれば、ブラジルの激しい守備がことごとく反則を取られ、スペインのFKが増えたことだった。だが、スペインはFKのチャンスを生かせず、55分にはセルヒオ・ラモスがPKまではずしてしまったのだ。

 スペインは、「ティキタカ」と呼ばれるパスサッカーでこれまで世界のサッカー界に君臨してきた。対戦相手はそのパスサッカーを恐れて引いて守るから、スペインは余計に楽にパスをつなぐことができた。たとえば、この大会でも初戦のウルグアイは引いて守る戦い方を選択。スペインのボール支配率は70パーセントを超えた。

 だが、準決勝ではイタリアが3バックを駆使して真っ向から勝負をしかけてきた。そして、ブラジルもスペインのパス回しに対して積極的に仕掛けて、パスを分断した。イタリア戦でのスペインのボール支配率は54パーセント、そしてブラジル戦では52パーセントに終わり、パスを分断されたスペインは、ほとんど反撃の糸口すらつかめなかった。

 2012−13シーズンでは、チャンピオンズリーグでもレアル・マドリーとバルセロナがドイツ勢の激しい守備の前に劣勢に立たされた。そして、コンフェデ杯ではイタリアとブラジルがスペインと激しく渡り合った。今後はスペイン相手にも前から仕掛けてくるチームが増えるはずだ。ワールドカップ(W杯)での連覇を狙うとするなら、スペインもパスサッカーだけに固執することなく、新しい戦い方を準備する必要があるのだろう。

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著者プロフィール

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、観戦試合数はまもなく4800。EURO(欧州選手権)は1980年イタリア大会を初めて観戦。今回で7回目。ポーランドに初めて行ったのは、74年の西ドイツW杯のとき。ソ連経由でワルシャワに立ち寄ってから西ドイツ(当時)に入った。

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