タヒチがコンフェデ杯でつかんだ“勝利”=世界という大海原に残した航跡

植松久隆

事実上の“世界デビュー”

ナイジェリア戦で大会唯一の得点を挙げたジョナサン・テハウは、国際舞台でタヒチの存在を観衆に刻み込んだ 【Getty Images】

 6月17日(日本時間18日)、ブラジルのベロ・オリゾンテにあるミネイロンスタジアムに、タヒチ対ナイジェリアの試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。その笛の音を聞いたタヒチ選手の顔には、およそ1−6と言う大敗の直後には似つかわしくない朗らかな表情が見られた。ピッチ上にひざまずき、天を仰いで神に感謝の祈りを捧げる選手の姿も見えた。何が彼らをそこまで喜ばせたのか――それは、彼らがコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)という夢舞台で大仕事をやってのけたことによる歓喜の昇華だった。

 タヒチと聞いて、一般の日本人は何を思い浮かべるだろうか。高名なフランス人画家のポール・ゴーギャンの作品群で描かれたタヒチ女性の姿は良く知られるが、それ以外ではさほどなじみがないというのが正直なところだろう。タヒチは、行政上はフランスの海外領土で、その正式名称を仏領ポリネシアという。全人口のほぼ7割が暮らす首都パペーテを有するタヒチ島は、その名がそのまま地域の通称となっているように仏領ポリネシアの中心地。そんな事情もあって仏領ポリネシアの代表チームは、長らく“タヒチ代表”として国際大会にエントリーしてきた。
 タヒチ(FIFAランキング138位)は、オーストラリアのアジアサッカー連盟(AF)転籍後、事実上の1強体制を維持してきたニュージーランド(同57位)に続く2位グループを、同じく仏領であるニューカレドニア(同97位)や、オセアニアサッカー連盟(OFC)主催大会で安定的成績を収めるソロモン諸島(同166位)などと、形成している。そんな中でタヒチは、オーストラリア、ニュージーランドというかつてのOFC2強以外で初めて2012年OFCネーションズカップを制覇し、世界を驚かせた。そして、その快挙が今回のコンフェデ杯でのタヒチ代表の事実上の“世界デビュー”へとつながった。

ベロ・オリゾンテの歓喜

 タヒチの国際経験の乏しさは、6月18日掲載の宇都宮徹壱さんの「コンフェデ杯通信(タヒチの勇気ある冒険に胸を熱くする)」に詳しいが、今回のコンフェデ杯はまさに“未知との遭遇”となった。そんなタヒチをブラジルの地で待ち構えたのは、世界王者スペイン(FIFAランキング1位)、南米王者ウルグアイ(同19位)、アフリカ王者ナイジェリア(同31位)と、いずれ劣らぬ強豪ばかり。そもそも、大会直前の英国ブックメーカー大手が4001倍と言う天文学的オッズを付けたタヒチが敵う相手ではなかった。それゆえにタヒチにとってのコンフェデ杯は、徹頭徹尾「自らの存在をアピールする」場であり、大会での最大のタスクは「得点を挙げる」ことにほかならなかった。「一度でいい、ゴールネットを揺らしたい」という思いを胸に、タヒチ代表はブラジルへと乗り込んだ。

 そして、その大きなタスクを彼らは初戦で成し遂げる。ナイジェリア戦の後半54分、CKからFWマラマ・バヒルアがあげたボールを高い打点からMFジョナサン・テハウがヘッドで押しこみ歴史的なゴール。直後の中継画面には、両手を挙げ飛び上がりながら歓喜の雄叫びを上げるタヒチのエディ・エタエタ監督の姿を捉えた。ピッチ上では、殊勲のテハウを囲んだ選手たちが、南太平洋の民の象徴“カヌー”パフォーマンスを披露、歴史的なゴールを祝った。テハウが「(ゴール直後は)頭の中が真っ白になって、きちんとチームメートとゴールを祝うことしか考えられなかった」と言うそのパフォーマンスは、ポリネシアの小さな島国が“世界”と言う大海原に漕ぎ出し、そこに一つの大きな“航跡”を残したことを象徴的に表した。

 歴史的ゴールをおぜん立てしたベテランのバヒルアは、チーム唯一のプロ選手としてギリシャ(パントラキコス)でプレー、今大会で初めて母国の代表に招集され、歴史的ゴールのアシストという大仕事をやってのけた。試合後に彼は、自らが演出したゴールと試合を「(ゴールは)ずっと記憶に残るだろう。誰も予測していなかったかもしれないが、僕らは自分たちのサッカーをしてハードに戦うことで、試合全体を通しては難しいとしても、(国際舞台でも)戦えることをアピールできた。(得点は)純粋に素晴らしいことで、誇りに思う」と振り返った。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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