タヒチがコンフェデ杯でつかんだ“勝利”=世界という大海原に残した航跡

植松久隆

敵国を魅了するタヒチの「スマイル・サッカー」

3戦全敗も、常に笑顔を絶やさなかったタヒチ代表。ウルグアイ戦後には「ありがとうブラジル」と書かれた横断幕を掲げた。 【Getty Images】

 ナイジェリア戦後の敗戦チームに似合わない歓喜の姿は、タヒチの目的達成の安堵(あんど)感とスコア以上に戦えたことへの充足感の表れであった。大敗してなおスタジアムに清々しい印象を残した彼らには、スタンドからも惜しみない拍手が送られた。その中を、観客に応えながら満足げに引き上げていく選手たちの顔には、笑みがこぼれ、「スマイル・サッカー」を世界にアピールした。

 タヒチは、ナイジェリア戦の後、無敵艦隊スペインとの対戦を0−10、ウルグアイに0−8と連敗を喫し、3戦全敗(1得点24失点)で、初めてのコンフェデ杯の戦いを終えた。スペインのビセンテ・デル・ボスケ監督が「気高い対戦相手だった」と評したように、タヒチ代表の献身的なプレーやフェアプレー精神、さわやかな笑顔を絶やさない「スマイル・サッカー」は、観衆だけでなく対戦相手の選手や監督をも魅了した。 

 タヒチ戦で4得点のスペイン代表FWフェルナンド・トーレスは、タヒチについて以下のように語った。その発言は、タヒチが大会で体現したものを的確に言い当てており、少し長いがそのまま引用しておきたい。
「彼らは、他チームのお手本になるチーム。圧倒的な力の差があっても、彼らはサッカーを楽しんでいた。一番重要なのは、試合がスポーツマンシップにのっとったものであったということ。僕ら(スペイン代表選手)もすっかりタヒチのファンになって、試合後に一緒に写真を撮った。彼らと試合をしたのは大きな喜びだよ。それは、圧勝したからということではなく、彼らが非常にフェアで、たとえゲームに負けていても、試合の最初から最後まで笑顔で戦っていたからさ」

世界に漕ぎ出したタヒチサッカー

 最終戦となったウルグアイ戦でも会場を大いに沸かせたタヒチは、試合後、ブラジル国旗を振り、「ありがとうブラジル」と書かれた横断幕を掲げ、大会を通じて応援し続けてくれたブラジルの観衆に感謝の意を表しながら、ピッチを去った。タヒチのさわやかな戦いぶりは、イタリア戦の善戦で賞賛を浴びた日本と並んで、大会前半のハイライトの一つとして大きなインパクトを残した。

 ただ、今大会を「よくやった」だけで片づけられないのが、オセアニア代表として臨んだ今大会の「3戦全敗/得失点差−23」という厳然たる結果。この結果は、オセアニアと他大陸とのレベル差というコンフェデ杯の潜在的な問題を再提起しており、そのことをなおざりにしていては、オセアニアサッカーの進歩はままならない。

 とはいえ、8日間に渡ったタヒチの冒険は、成功裏に終わったと言って差し支えないだろう。エタエタ監督の「われわれはブラジルのファンの心をつかむことで大きな“勝利”を得ることができた」というセリフが、彼らにとってのコンフェデ杯の意義を問わず語りに伝えている。 タヒチ代表がナイジェリア戦で歴史的ゴールを刻んだのは、ポルトガル語で「美しい地平線」を意味するベロ・オリゾンテ。この地で歴史的ゴールとともに記憶されるタヒチのコンフェデ杯での“勝利”は、タヒチサッカーが漕ぎ出した世界という大海原の先で待つ「美しい未来」へと導く大きな道しるべとなるに違いない。

<了>

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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