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靴の底が減り、スタジアム広告が増える
奇跡の甲府再建・海野一幸会長 第1回

売れるスペースはすべて売る

存続危機からクラブを立て直した甲府の海野会長。その軌跡を振り返る
存続危機からクラブを立て直した甲府の海野会長。その軌跡を振り返る【スポーツナビ】

 甲府盆地を囲む山並みが青く輝いている。山梨中銀スタジアムの客席に座って視線を落とすと、そこにはヴァンフォーレ甲府を支えるスポンサーの看板や横断幕がぎっしりと連なっている。


 たとえばゴール裏に目をやると、そこには計39枚の看板が4列に並んでいる。「ゴールした選手がサポーターのところに駆け寄るのも大変なんですよ。何度も飛び越えなきゃいけないから。サッカー専用スタジアムになったら、とても収まらない」。会長の海野一幸は冗談めかして、そんなことを言う。


「まあ、あの看板がウチの一番の自慢ですよ」。とにかく、広告として売れるスペースはすべて売る。両チームのベンチの囲いの上、脇、さらに囲いの背後にも看板が立つ。4カ所の砂場を覆うシートの上、選手が入場してくる蛇腹(じゃばら)式トンネル、ボールボーイのイスの背中……。故障者を乗せる担架の広告はいまや多くのクラブが採用しているが、最初につけたのは甲府であり、試合前にはボールボーイが広告面を客席に向けて一周する儀式がある。


 クラブが存続の危機に陥っていた2000年度、広告料収入は2600万円を割り込んでいた。しかし、01年度に「再建役」として社長に就任した海野を中心に精力的な営業を重ねた結果、07年度に約7億7800万円に達し、11年度も約6億3500万円に上った。小口のスポンサーも多いとはいえ、その総数は650を超えている。「企業再建のセオリーは当然『収入を増やして支出を減らす』だけれど、ほとんどが固定費で、減らせるものはあまりなかった」。だから、こつこつと広告料を積み上げていくしかなかった。

商魂のなかに挟まった遊び心

 そのために海野はふんだんにアイデアを出す。売れるスペースはないかと頭をひねる。ユニホームには胸、背中、袖、パンツに広告を入れ、練習着には別のスポンサーをつける。ここまではどのクラブでも実行している。


 甲府はその先をいき、アウエーの試合用の練習着に別のスポンサーをつけている。着用時間は試合前のわずか30分に限られるが、やまなし観光推進機構による「富士の国 やまなし」という広告はアウエーだから意味を持つ。結局、練習着スポンサーだけで10を数える。


 ウェアの話はまだある。選手が地域貢献活動に出る際には、普通のウェアは着ない。着用するのは「地域交流ウェア」なるもので、そこには何と別の3社がスポンサーについている。さらに、マスコットの「ヴァンくん」にまでスポンサーをつけてしまった。ヴァンくんのモデルは甲斐犬。海野はオデッセイコミュニケーションズの出張勝也社長が犬好きで、甲斐犬を飼っていることを聞きつけ、口説き落とした。


 商魂がたくましいのは確かだが、そこに遊び心が挟まっている。その最たるものがゴルフカートにまつわる話かもしれない。数え切れないほどの看板を設営するには労力がいる。海野は弟が支配人をしているゴルフ場から使い古しのカートを譲り受け、設営に使い始めた。2台あるカートの使い道はほかにないものだろうか。今シーズンになって出した答えがユニークだ。「カートの上に看板をつけ、試合前やハーフタイムにマスコットがカートに乗って場内を回ったら注目度は高いはず」。


 広告の募集を始めたが、契約先は簡単には見つからなかった。そこで、カートの看板部分に「広告募集中」と掲示し、試合中にピッチの脇に置いた。公式サイトにその写真を載せたこともあり、引き合いがあり、後半戦からの契約が内定している。

吉田誠一(日本経済新聞社)

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