サッカルーズが崖っぷちで臨む日豪戦=世代交代失敗も日本の脅威となるのか

植松久隆

異例の準備体制で“本気”のオーストラリア

練習で笑顔を見せるオジェック監督(左)とケネディ。オーストラリアは試合の9日前に来日し、調整を続けている 【写真は共同】

 ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会行きの可否を大きく左右するライバル・日本との重要な対戦を前に、オーストラリアがいっこうに盛り上がらない。31日に日本へと発ったが、出発の直前に体感した限りでは、4日後に大事な一戦を控える緊張感は微塵(みじん)も感じられなかった。

 スポーツ・メディアは相変わらず、日本戦の翌日のラグビーリーグ(13人制ラグビー)の伝統の一戦「ステート・オブ・オリジン」に占拠され、テレビやネットで常に何らかの形で試合の情報を伝える日本のスポーツメディアとは、それこそ雲泥の差だ。豪州在住も10年近くになり、自国の代表の大事な試合を間近に控えていても、直前まで騒がない――そんな当地のサッカー・ファン気質には慣れたはずだが、これだけ大事な試合を前にしてのこの緩さには、「大丈夫か」と他人事(他国事?)ながら心配になる。

 そんな不安をよそに、代表チームの準備は順調に進んでいる。国内組メーンの第1陣が、日本に到着したのは実に試合の9日前の5月27日。4月末にシーズンを終えた国内組のコンディションを落とさぬようにと、5月初旬の国内での国内組合宿以来、代表は5月中は何らかの形で活動を続けている。その流れでの早めの来日となったのだが、W杯本大会ならいざ知らず、予選でこれだけ早く対戦国に乗り込むというのも、そうあることではない。季節の違いはあれど、日豪両国に順化が必要なほどの気候差があるわけでもない。
 
 それでも、サッカルーズ(注:代表のニックネーム。サッカーとカンガルーを掛け合わせた造語)は、埼玉市内に腰をじっくり据える異例の対応で、大事な試合に臨むことを選んだ。宿舎でのリラックスしきった選手やスタッフ、そして国内メディアの論調からはなかなか伝わりにくいが、今回の異例の準備体制は間違いなくオーストラリアの“本気”の表れだ。リラックスしたチームの雰囲気も本番が近づくにつれて徐々に気合いに満ちていく。4日に迫った重要な試合を前に埼玉の地で、サッカルーズは静かに燃えている。

オジェック監督に課せられたミッション

 ホルガー・オジェック監督が選んだ今回のメンバーは、多少のサプライズはあったものの、総じて予想の範囲内の“変わり映えのしない”顔ぶれ。確かに、ともに34歳の豪州サッカーのアイコンとも言うべきハリー・キューウェル、長く代表の屋台骨を支えたブレット・エマートンと2人のベテランの名前はリストから外され、事実上、代表引退の引導が渡された。だからといって、世代交代が進んだと理解するのは早計だ。

 代わりに、先の2名同様に一度は引導を渡されたと思われていたササ・オグネノブスキが、本人も「サプライズだった」と驚きを隠さない予想外の復帰を果たした。それと同時に腰痛が癒えたジョッシュ・ケネディも久々に代表に名を連ねた。そのほかにも、“不惑の守護神”マーク・シュワルツァー、キャプテンのルーカス・ニール、日本にとっては日豪戦では見たくない顔であるティム・ケーヒルなど、サッカルーズを日豪戦の折にしか目にしない日本のファンに「いつも同じ顔ぶれだ」と思われても仕方がない、おなじみのベテランがそろった。

 もともと、2010年8月のオジェック就任時に課せられたミッションは、「世代交代を促進させつつW杯出場を決める」というものだった。彼は、その3年の任期中で、与えられたミッションを成し遂げようと努力してきたが、残念ながらドラスティックな「世代交代」を実現させることはできなかった。これを一概にオジェック個人の責任とするのは危険だが、人材発掘の労力よりも常に安定勢力を起用する傾向が強かったのも否めない事実であり、期待通りに世代交代を進められなかったという意味で、オジェックの責任は決して軽くはない。

 W杯本大会の出場が危ぶまれるような状況まで追い込まれた今、オジェックは、「W杯出場」というタスク達成に100パーセント集中している。彼にしてみれば、ここでW杯出場を決めたからといって本大会で指揮を取れる保障はどこにもない。とはいえ、出場を決めない限りは、その可能性すら取り沙汰(ざた)されないわけで、「W杯出場」というもう1つの実を何とか手に入れようとするのは、ごく自然の成り行きだ。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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