黒田博樹 38歳の成功を支える加齢の妙

杉浦大介

ジラルディ監督からの信頼ももはや絶大

今やリーグ最高級の投手へと成長を遂げたヤンキースの黒田、その秘密はどこにある? 【写真は共同】

 それは黒田博樹が生み出した新たな“マスターピース”だった。

 5月17日にニューヨークで行なわれたブルージェイズ戦で、黒田は8回を2安打1四球で無失点。合計109球で三塁も踏ませず、先頭打者に二塁打を打たれて以降、続く19打者をすべて討ち取り続けるという完璧なピッチングで6勝目(2敗)を挙げた。

「自信はない。次に打たれたら自信なんてすぐなくなりますから。常にびびりながらやっています。それが良い方向に行っているんじゃないかと思います」
 試合後、本人はいつも通りにそんな謙虚な言葉を繰り返していた。しかし、これで7戦連続のクオリティスタートで、防御率は1点台に突入(1.99)。防御率はリーグ2位、WHIP(1イニングに出す走者の割合)0.95はリーグ4位といった数字が示す通り、その投球内容の見事さは誰の目にも明らかだ。

「速球、スライダー、スプリッターという3つの球種がすべて良かった。長いイニングを投げ、ブルペンを休ませてくれる。(黒田は)昨年から通じて私たちを感心させ続けてくれている」
 ブルージェイズ戦後のそんな言葉が示す通り、ヤンキースのジョー・ジラルディ監督からの信頼ももはや絶大。悪いときは悪いなりにまとめ、好調時には相手を完璧に封じ込め、常にイニングを稼いでくれる。指揮官にとって、こんなに頼りになる投手はいないだろう。

「サイ・ヤング賞候補のように投げている」

 2012年オフにFA移籍直後、ハイレベルなア・リーグ東地区、しかも打者有利のヤンキースタジアムへの適応が憂慮されたのが遠い昔のことのように思える。
 しかし振り返ればわずか1年前、昨季最初の9先発を終えた時点での黒田は3勝6敗、防御率4.56という二流の成績だった。筆者も、「やはり投高打低のナ・リーグ西地区で守られて来た投手か」と疑ったことを否定しない。それが今では、「サイ・ヤング賞候補のように投げている」とESPN.comニューヨークから評されるまでになった。

 昨季以降、7イニング以上投げて無失点のゲームは9度を数え、これはクレイトン・カーショウ(ドジャース)、フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)と並ぶメジャー最多。5月14日の「ニューヨーク・ポスト」紙上では、「昨季以降の黒田の防御率3.13は、200イニング以上投げた投手の中ではジャスティン・バーランダー(2.52)、ヘルナンデス(2.76)、デビッド・プライス(3.00)、クリス・セール(3.01)に次いでメジャー5位」というデータも紹介されていた(注/数字はすべて14日時点)。
 これらの実績からは、ここ2年の黒田がいわゆる“球界のエース”たちと比べても遜色ない投球を続けて来たことが見えて来る。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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