黒田博樹 38歳の成功を支える加齢の妙

杉浦大介

長く積み重ねてきた経験が深い意味を持った1球に

これまで積み重ねてきた経験が黒田を支えている 【Getty Images】

「1年を通してそんなに甘くない。まだ先は長い。次の登板に向けてしっかり調整するだけ。その繰り返しです」
 本人はなかなか認めようとしないが、ここまで来たらもうまぐれでも偶然でも何でもない。筆者を含め、黒田のア・リーグ東地区への適応を疑った多くの地元メディアの見方は誤りだった。昨季中盤以降の背番号18は、紛れもなくリーグ最高級の投手の1人であり続けてきたと認められて良いはずだ。

「(今日は)自分でも考えながら投げたと思う。それが僕の強み。去年より情報を頭に入れて、打者を見ながら投げている」
 17日の試合後にもそう語っていた通り、黒田のこの成功の陰には、たゆまぬ努力とそれに裏打ちされた適応能力があるのだろう。
 4月30日のアストロズ戦では、立ち上がりは制球難で3回までに4四球を与えたが、4回以降はセットポジションからの投球に活路を見出した。今季早くも3度目の対戦となった17日のブルージェイズ戦では、これまでと違う握りのスプリッターを有効に使い、ホセ・バティスタ、エドウィン・エンカーナシオンらを中心としたパワー打線を空転させた。

“歳をとることは恥ではないんだよ”

 かつてそう語ったボクシングの世界ヘビー級王者がいたが、加齢がアドバンテージにも成り得ることは、実際に黒田のピッチングを見ていると分かり易く伝わって来る。長く積み重ねてきた経験が、深い意味を持った1球1球に繋がっている。打者に関する知識、洞察力、マウンド上での落ち着きがゆえに、不調時にも大崩れすることはない。
「球数に気を配るようにはしている。彼は25歳じゃないんだからね。まるで25歳であるかのように振る舞っているが、年齢を忘れてはいけない」
 17日のブルージェイズ戦後にジラルディ監督が指摘していた通り、38歳であるがゆえに、夏場に向けてスタミナへの懸念が残るのは確かだろう。その一方で、まるで伸び盛りの25歳のような向上への意欲を秘めたエース右腕の今後に、さらに大きな期待を寄せずにもいられない。

オールスター先発候補の可能性だってもうゼロではない

 現在、ア・リーグ防御率トップ5を形成するクレイ・バックホルツ(1.78/28歳/レッドソックス)、ヘルナンデス(2.07/27歳)、マット・ムーア(2.29/23歳/レイズ)、岩隈久志(2.37/32歳/マリナーズ)はすべて“今が旬”の年齢の投手たち。そんな中において、いぶし銀の38歳は今後も最高級の投球内容を保てるのかどうか。
 このまま順調に行けば、今季はメジャー6年目にして初めてのオールスター出場の夢も膨らむ。話題性には欠けるだけに本命とまでは言えないが、地元ニューヨークのシティフィールド開催だけに、球宴の大舞台で先発候補となる可能性だってもうゼロではないはずだ。

 成長を続ける大ベテランが迎える2013年、夏―――。黒田にとって、渡米以来最も熱い季節になりそうな予感が濃厚に漂って来る。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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