過去10年途絶えた大記録 “夢の年間300K”ダルビッシュは可能か

菊田康彦

02年のR・ジョンソン、シリングが最後

現在ハイペースで三振を量産するダルビッシュ、夢の年間300Kは可能か? 【Getty Images】

 メジャーリーグで途絶えて10年になる記録に、投手の「シーズン300奪三振」がある。1901年以降のいわゆる近代メジャーで、この記録を達成した投手はのべ33人。歴代最多の通算5714奪三振を誇るノーラン・ライアン(レンジャーズほか)、そして同2位の通算4875奪三振のランディー・ジョンソン(ダイヤモンドバックスほか)はそれぞれ6度も記録しているが、2002年のジョンソンとカート・シリング(当時ダイヤモンドバックス)を最後に成し遂げたピッチャーは誰もいない。しかし、メジャー2年目にしてその大記録に迫る勢いで奪三振の山を築いているのが、ダルビッシュ有(レンジャーズ)だ。

 今季初登板となった4月2日(以下、日付はすべて現地時間)のアストロズ戦で9回2死までパーフェクトの快投を演じ、14三振を奪ったダルビッシュは、その後も4月19日マリナーズ戦(10個)、同24日エンゼルス戦(11個)、5月5日レッドソックス戦(14個)と計4度の2ケタ奪三振をマーク。今月11日のアストロズ戦でも7回までに8個の三振を奪い、ここまで計80奪三振で両リーグのトップを独走している。

メジャー通算300奪三振は史上2位の速さ

 ハーラートップタイの6勝目を挙げたその11日のアストロズ戦で、ダルビッシュはメジャー通算で300奪三振に到達した。これがちょっとした話題になったのは、デビューから37試合目での達成が1985年のドワイト・グッデン(当時メッツ)の35試合目に次ぐ史上2番目の最速記録だったからだ。グッデンといえばまだ19歳だった1984年に彗星のごとくメジャーの舞台に現れ、伸び上がるような速球を武器に276奪三振のルーキー新記録を樹立した元祖「ドクターK(Kは三振の意)」。今もピッチャーが三振を奪うたびにファンが掲げる「Kボード」は、このグッデンが嚆矢である。その快速球右腕ですら「300」の大台には1度も届かなかったのだから、この記録がいかにハードルの高いものかわかるだろう。

 ちなみに日本人メジャーリーガーの年間最多奪三振は、野茂英雄がドジャースでデビューした1995年に記録した236個。野茂はこの年も含め2度奪三振王に輝いており、4度にわたって200Kを突破している。自己最多を記録した95年は、前年から続いた長期ストの余波で通常は162試合のシーズンが144試合に短縮された年であり、単純に試合数の違いだけを補正すれば年間266個という数字が導き出される。つまり、それでも300には届かなかったということだ。

奪三振は投手の華……現在のペースなら十分いける!

 それではダルビッシュの「シーズン300K」は可能なのだろうか? メジャーリーグの公式サイトは、ダルビッシュの5月5日のレッドソックス戦までの成績をもとに「YU CAN DO IT(有ならできる)」と銘打った特集ページを開設。1999年のペドロ・マルティネス(当時レッドソックス、ドミニカ共和国出身)に次いで、米国以外で生まれた投手としては近代メジャーで2人目となる300奪三振達成の可能性に言及している。そこでの予測は「9月8日に300K到達、最終的には350奪三振」というものだ。これはその時点までのダルビッシュの14・19という驚異的なK/9(9イニングあたりの奪三振数)に基づいたものであり、さすがにこのハイペースを最後までキープするのは難しそうだが(11日のアストロズ戦終了時点で13・67)、そのあたりを差し引いても可能性は十分にあると言えそうだ。なお、K/9の歴代最高は前出のジョンソンが2001年にマークした13・41で、もしダルビッシュが 現在の数値を維持すればメジャー新記録となる。

 もっとも、ダルビッシュ自身は「三振を取る競技ではないので、何も思わないです」と話すなど、記録へのこだわりはまったくないようだ。それでもバッターならホームラン、ピッチャーならストライクアウトは、やはり日米を問わず野球の華。特にエンターテインメント性の強いメジャーリーグなら、なおさらだ。投手にとって最高の栄誉と言われるサイ・ヤング賞とは無縁で、ワールドチャンピオンになったのも駆け出しだった頃の1度きりというノーラン・ライアンが、あれほどまでに偶像化されているのはなぜか。それは彼がケタ外れに三振を取れるピッチャーだったからにほかならない。そういう意味ではたとえ本人が無関心であろうとも、ファンにとってはシーズン300奪三振が夢の記録であるのは間違いない。そんな「ファンの夢」にダルビッシュがどこまで迫ることができるのか、大いに注目していきたい。

<了>
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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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