五輪招致の裏側……東京の広報戦略に迫る=支持率向上、PR活動に励む精鋭部隊
50万人以上が詰めかけた凱旋パレードは、招致活動のイメージづくりとしては効果抜群。センセーショナルな画像は国際広報において大きな意味を持つ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
国内最大のミッションである支持率向上に成功
支持率の向上を託された国内広報では、02年サッカー・ワールドカップ(W杯)招致やプロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスなどで広報を務めた西村亮氏が戦略広報部副部長・国内広報ディレクターに就任。ロンドン五輪の開幕直前という慌ただしい時期の招集だったが、「このロンドン五輪こそが大きなターニングポイントになった」と氏は振り返る。
「IOCが最初の独自調査を行った昨年5月の時点で東京の支持率は47%。これをなんとかして70%台に引き上げることがひとつの目標でした」
70%の根拠は、12年のオリンピック・パラリンピック招致に成功したロンドンが、当時68%の支持率で招致を勝ち取った例に基づくもの。ロンドンは東京と同じ成熟型都市で市民の嗜好(しこう)が多様化する傾向にあり、五輪の支持率も上がりにくいと言われていた。そのロンドン五輪で日本は史上最多となる38個のメダルを獲得。この快挙に国民は熱狂し、同時にオリンピック・パラリンピック招致を応援する声も高まった。それまでの逆風が追い風に変わったのだ。
ロンドン五輪の盛り上がりを招致賛成世論へ
オリンピック・パラリンピック招致の広報活動において、この「画(え)づくり」はしばしば登場する手法だ。特にテレビ各局は“画になる”画像を求めているため、広報担当者は常に画づくりを意識することとなる。また、招致都市の人々が五輪を歓迎する様子は国際広報の側面でも重要な意味を持つ。
例えば12年招致の最有力候補と目されていたパリが開催都市決定の1カ月前にシャンゼリゼ通りで招致イベントを開催し、数万人規模の人々が通りを埋め尽くす画像が配信された。結局、招致は接戦の末、ロンドンが勝ち取ったが、凱旋門をバックにした迫力の画像はIOC委員にも大きなインパクトを与えたと言われている。
秋以降はロンドン五輪で盛り上がった招致機運をさらに加速させるため、招致関連のイベントに出演するメダリストへのブリーフィングやメディアリレーションなどを強化した。その結果、メダリストたちのエモーショナルなメッセージがメディアを通じて拡散し、世論も徐々に動いていった。
20年招致のPR効果を物語る興味深い数字がある。招致活動の山場となった今年1月の立候補ファイル提出時、このときのメディア露出を広告換算すると約110億円。3月のIOC評価委員会では実に150億円近いPR効果を挙げたと算出されている(ともに戦略広報部によるもの)。
「人員も予算も前回の招致活動の約半分という中で、重要な時期と効果的な露出を徹底しながら、打てる球はすべて打つという強い気持ちでやってきました」と西村氏。その結果、3月にIOCが発表した2度目の独自調査の結果は、東京の支持率70%。マドリードの76%、イスタンブールの83%には及ばなかったが、東京は当初の目標をクリアし、招致レースで勝負できる数字まで押し上げることに成功した。支持率56%にとどまった16年招致では成し得なかった大仕事である。