五輪招致の裏側……東京の広報戦略に迫る=支持率向上、PR活動に励む精鋭部隊

高樹ミナ

広報戦略を左右するコンサルタントとの連携

東京はロンドン招致に貢献したコンサルタントのバーレー氏を起用。メッセージの「Discover Tomorrow」はバーレー氏の提案がもとになっている 【写真は共同】

 国際広報は国内広報とは大きく手法が異なり、主に3種類の広報スペシャリストたちが鍵を握っていると言える。オリンピック・パラリンピック招致の広報戦略を熟知するコンサルタント、世界中にメディアネットワークを持つ国際PR会社、そして五輪専門の記者たちだ。

 コンサルタントはIOC委員に影響を与える広報戦略を練る。実力のあるコンサルタントは世界に数人しかいないため、契約するコンサルタント次第で広報戦略は大きく左右される。ちなみに16年東京招致では、14年冬季オリンピック・パラリンピック招致でソチに勝利をもたらしたジョン・ティプス氏が広報戦略を担当。氏は現在、東京のライバルであるイスタンブールと契約し、招致活動の陣頭指揮を執っている。一方、東京は12年ロンドン招致に貢献したニック・バーレー氏を起用した。

 戦略広報部・国際広報ディレクターの首藤久雄氏はバーレー氏についてこう語る。ちなみに首藤氏も02年サッカーW杯日本組織委員会やJリーグで実績を積んできた人物だ。
「海外のコンサルタントには珍しい協調を大切にするタイプ。密なミーティングを重ねながら互いに理解を深め、広報戦略を練り上げています。東京はロンドンと同じ成熟型都市ですから、彼の経験からフィードバックされることも多く、もっと自信を持って東京の強みを打ち出すようアドバイスを受けています」

 東京が打ち出すメッセージ「Discover Tomorrow」もバーレー氏の提案がもととなっている。そこには東京だからこそできる安心・確実な大会運営のもと、スポーツの価値を高める素晴らしい大会を実現することがうたわれている。今後は東京の特長をより強調するために、日本の誇る経済力を前面に打ち出していくという。

海外メディアの効果的活用が国際広報活動の肝

 国際PR会社は世界中のメディアにニュースを配信するとともに、高い情報収集能力を持つ。東京は16、20年ともに『ウェーバー・シャンドウィック』社と契約。同社は00年シドニー招致に成功したほか、08年の北京招致では民主化・環境問題・人権問題で批判されていた中国のマイナスイメージを、あらゆるメディア戦略を駆使して払拭(ふっしょく)させた。例えば環境問題では米国の小さなNGO団体がIOCに送った「オリンピック・パラリンピック開催が中国の緑化を推進する」というメッセージにいち早く目をつけ、世界中に配信。「グリーンオリンピック」というポジティブイメージに変えていったのは有名な話だ。

 五輪を専門に取材する記者たちは、長年五輪報道に携わり、IOC委員とも太いパイプを持っている。中には多くのIOC委員が目を通す『アラウンド・ザ・リングズ』や『スポーツ・インターン』など五輪専門媒体を運営する記者もおり、国際広報のメンバーたちは彼らと良い関係を構築することに神経をとがらせる。もちろん世界各国に拠点を持つ通信社や一般紙もその対象で、特に在日の海外通信社との関係を重視している。招致委員会のロビー活動はIOC委員だけでなく、影響力のある記者たちに対しても行われているのだ。

 国際広報活動のミッションは、こうした広報のスペシャリスト集団を最大限に活用し、招致都市のポジティブなメッセージを訴えていくことにある。戦略広報部の首藤氏は、「なぜ東京で五輪を開催するかを問う“Why Tokyo?”という決まり文句がありますが、招致都市側の理由とIOC側が求める理由とがある。両者が合致するのはスポーツの価値を高めるという点であり、それには東京が最良だということを強く訴えていきたい」と話す。

 各IOC委員が五輪の将来性や関係する競技団体の発展などを加味しながら開催都市を選定していく過程で、東京のメッセージは彼らにどれくらい響くだろうか。70%の支持率という期待のバトンを渡された国際広報部隊は残りの4カ月で世界のスポーツコミュニティーに大きな東京の風を巻き起こさなくてはならない。

 次回は開催都市決定(9月7日/ブエノスアイレス)まで4回にわたって行われる招致都市のプレゼンテーションをテーマに招致活動を検証する。

<この項、了>

2020年夏季オリンピック・パラリンピック招致
 2020年夏季オリンピック・パラリンピック開催をかけて現在、東京(日本)、マドリード(スペイン)、イスタンブール(トルコ)の3都市が招致活動を展開。今後のスケジュールとしては5月のスポーツアコード(ロシア・サンクトペテルブルク)、6月のANOC(国内オリンピック委員会連合)臨時総会でのプレゼンテーション、7月のテクニカルプレゼンテーション(ともにスイス・ローザンヌ)などを経て、9月7日のIOC総会(アルゼンチン・ブエノスアイレス)で開催都市が決定する。

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント