田中陽子と猶本光、分かれた明と暗=新たな壁に直面したヤングなでしこたち
U−20W杯で味わった悔しい敗戦
現在6試合連続先発出場中の田中陽。浦和戦でも先制点につながるPKを奪取するなど、チーム内でも存在価値を高めている 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
去年の夏は、ロンドン五輪が開催された。その五輪閉幕後、史上初の銀メダルに輝いたなでしこジャパンの勢いを借りるかのように、U−20日本女子代表(ヤングなでしこ)は、自国開催のU−20女子W杯で史上初の3位に入賞した。わたしは8月9日(現地時間)に行われたロンドン五輪の女子サッカー決勝を取材した後、13日にはヤングなでしことU−20カナダ女子代表の国際親善試合(福島県・あづま総合運動公園陸上競技場)を取材していた。去年の女子サッカー界の夏は、ロンドン五輪の余韻を残したままU−20女子W杯の開幕を迎えた。
日本は準決勝でU−20ドイツ女子代表に完敗し、その後の3位決定戦・U−20ナイジェリア女子代表戦で勝利を収めた。3位で表彰台に登り、メダルも手にした。しかし、国立競技場でU−20米国女子代表の優勝チーム記念撮影を、脇で眺める日本の21人の選手たちの表情には、悔しさも含まれていた。ある選手は涙も流していた。
あの3位決定戦と表彰式から、5月8日でちょうど8カ月である。
うれしさと悔しさを抱えた21人は、チームの解散後、それぞれの所属クラブやその下部組織チーム、大学や高校の女子サッカー部に戻り、所属先でのポジション争いに参戦していった。そして今年4月にはなでしこリーグのトップチームに昇格したり、高校を卒業してなでしこリーグのチームに加入したり、環境を変えた選手がいる。
彼女たちの現在地は、選手によって異なる。U−20女子W杯で自らの存在価値を高めて所属クラブ内でレギュラーを獲得した者、大会中に抱えていたけがから復帰し、レギュラー獲得を目指す者、反対にけがを負ってしまった者、ベンチ入りすら叶わない者もいる。
チームで頭角を現す田中陽
U−20女子W杯でシルバーブーツ賞(得点ランキング2位)を獲得したMF田中陽子(I神戸)は、リーグで首位を快走するチームで頭角を現しているひとりだ。FW高瀬愛実(I神戸)の負傷を機に出場時間を伸ばし、浦和戦で6試合連続先発出場。チームの1点目となるPKを呼び込んだ。
「メグさん(高瀬)のけがは、チームにとってピンチだけど、わたしにとってはチャンス。自分はここで結果を出して存在感をしっかり発揮したい」とI神戸で2年目を迎えた田中陽は決心している。
田中陽が持つ視野の広さとボールをゴールに向かって運ぶ推進力は、リーグ全体を見渡しても際立つ。I神戸を率いる石原孝尚監督の評価も高まっている。
「陽子はINACのスピードに慣れてきた。去年はU−20年代では(パフォーマンスが)よかったが、まだINACのスピードではプレーできていなかった。特にサイドだと彼女らしさが出る」
しかし、田中陽の戦いはまた新たな局面に入ろうとしている。戦列を離れていた高瀬がこの試合で復帰し、その復帰戦で見事な得点を挙げたからだ。昨季のリーグ最優秀選手賞(MVP)と得点女王をダブル受賞したライバルの復帰は、田中陽の目にどう映ったのか。これからも変わらずに成長を続けられるのか、田中陽の本当の勝負が始まったと言っていいだろう。
そのI神戸において、FW道上彩花、MF仲田歩夢は限られた出場時間で定位置確保にまい進している。常盤木学園高校からI神戸に加入した道上は、出場したチャンスを生かしてすでに2得点。しかし自分にマークが集中すると、存在感を発揮できない場面も見られる。日本のトップリーグを肌で感じつつ、経験を積み重ねている。1年先輩の仲田も短い出場時間ながら得点に絡み、戦力になり得ることを実証している。I神戸のレギュラーを即座に奪える状況ではないものの、その準備は万端だ。