田中陽子と猶本光、分かれた明と暗=新たな壁に直面したヤングなでしこたち

馬見新拓郎

「まずはレッズでしっかり試合に出ないと」

負傷で出遅れた猶本は第7節終了時点で1試合の出場にとどまるなど苦しい時期を過ごす 【Getty Images】

 一方で、U−20女子W杯の全6試合にフル出場したMF猶本光(浦和)は今、もどかしい日々を過ごしている。今季開幕前から抱えるけがにより出遅れ、第7節終了時点で、出場は1試合のみ。世代交代を推し進め、若手中心に大きく舵をきるチームにあって、背番号を一桁の『8』に変えた猶本は、その核とならなければならない存在である。

「ドイツ戦を通じて、技術を持っていてもそれを発揮できなければ意味がないと感じた。そのための体づくりが必要になってくる」
 0−3と完敗したドイツ戦を終えて、猶本はショックを隠せない様子でそう言った。『ドイツへのリベンジを、次はなでしこジャパンで』とつなげようとする周囲を制して、「まずはレッズでしっかり試合に出ないと」と口にする真面目な猶本だっただけに、浦和での完全復帰が待たれている。

 U−20女子W杯以前から浦和の主力だった柴田は、大会MVPの次点に当たるシルバーボール賞を獲得した後も、中心選手として活躍している。しかし、U−20女子W杯に参加したGK池田咲紀子、DF坂本理保、DF和田奈央子、DF加藤千佳、そしてキャプテンを務めたMF藤田のぞみとともに戦うリーグ戦で、浦和は一向に良い結果を出せずにいる。1勝6敗で10チーム中9位(第7節終了時点)。悪い流れを断ち切ることができない若手チームの側面があらわになり、柴田自身も準々決勝・U−20韓国女子代表戦で披露したような、見る者を恍惚(こうこつ)とさせるドリブルは皆無。各選手の長所を発揮できず、大きな壁にぶつかった浦和は、チームの立て直しが必要だ。この元ヤングなでしこ世代がここでさらなるリーダーシップを見せなければ、状況の好転は難しいだろう。

対照的な日テレの土光と田中美

 U−20女子W杯後にFIFA(国際サッカー連盟)が発表したテクニカルレポートでは優秀選手21人が選ばれ、日本からは5人が名を連ねた。藤田、猶本、田中陽、柴田、そしてDF土光真代(日テレ・ベレーザ)だ。現役高校生の土光はU−20女子W杯の全6試合にフル出場したものの、日テレではまだ磐石なレギュラーではない。なでしこリーグ各チームのエースを抑えられるまでの予測と賢さは、発展途上だと言っていい。

 土光とは対照的に好調なのが、U−20女子W杯で無得点に終わったFW田中美南(日テレ)だ。田中美は持ち前の反転の速さとボール離れの良さで、U−20女子W杯後に調子を上げてきた。2月のU−19日本女子代表候補合宿では「U−19からは(アルガルベカップ遠征メンバーに招集しなくて)いいかな」と否定的だった佐々木則夫監督を、練習中に心変わりさせ、3月に行われたアルガルベカップに参加し、代表初得点まで挙げた。

「周囲の要求も高くなっているからそれに応えていってほしい」と、チームメイトのDF岩清水梓も期待を寄せる日テレのエース候補は今、伸び盛りの時を迎えている。

 猶本を始めとする多くの選手がショックを受けた準決勝のドイツ戦は、この世代が今後、世界との差を確認していく上で重要な指針になるはずだ。U−20女子W杯後、複数の選手から「あのドイツ戦は忘れられない」との言葉が口を突いて出てきている。その一方で「3位になってうれしかった」という言葉は出てこない。8カ月前に肌で感じた強烈な悔しさだけが、ひとつ歳を重ねようとしている選手たちをこれからも成長させていくはずだ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1984年2月8日、鹿児島県阿久根市出身。フリーライター。携帯電話公式サッカーサイト『オーレ!ニッポン』編集部を経て、2005年からフリーに。以後、女子サッカーを中心に2011年女子W杯、ロンドン五輪などを取材。週刊サッカーマガジン、エルゴラッソ等に寄稿。既刊本に『なでしこジャパン 壁をこえる奇跡の言葉128』(二見書房)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント