柏原竜二、苦難のルーキーイヤーに得た手応え=2時間5分台「僕らが出さないと」

折山淑美

マラソン挑戦「焦る必要はない」

「どんどん欲を出していきたい」と話す柏原はまず、今夏の世界陸上では1万メートル代表を目指す。その後、マラソンでの「2時間6分台」を見据える 【スポーツナビ】

 そんな柏原が思い描くマラソン選手のイメージ。それは一番身近な存在だと思う、同じ福島県出身の佐藤敦之(中国電力)だという。2時間7分13秒の自己記録を持つ佐藤は、1万メートルを27分台で走り、ハーフマラソンも1時間0分25秒の日本記録を持つ。柏原もそういうスタイルでやりたいからこそ、1万メートルも27分台を出したいし、そのままのペースで42.195キロを走りきるくらいの感覚を持ちたいというのだ。

「多分今なら、ハーフを1時間3分でなら押し切れると思うんです。ただ、30キロになったらどうなるのかなというのを知りたかったから青梅マラソンを走ってみたんです。結果的にはラスト7キロくらいから全然動かなくなったけど、それも経験になったし。逆に言えば、ハーフで1時間1分とか2分をバンバン出してそれで走り続けることができたら、30キロのための体力作りにもなる。そう考えればやり方はさまざまだとあらためて思ったし、ハーフもやってマラソンもやりたいなと思いました」

 4月の選抜中・長距離熊本大会で走ったとき、日本陸連の宗猛中・長距離マラソン部長が「マラソンは一度失敗した方がいい」と話していたことが興味深かったともいう。初マラソンで成功してしまえば「こんなものなんだ」と思ってしまいがちだ。しかし、最初の失敗で「マラソンはきついものだ」というのを経験した後に2時間6〜7分台を出せば、「こういう練習が良かったんだな」「こういう気持ちで取り組めたから良かったんだな」などと考えられ、マラソンを簡単に捉えなくなるのではないか――。

「その意味では、マラソンをやるのを焦る必要はないと思いますね。目標はリオデジャネイロ五輪だから、そこで結果が出せれば一番じゃないですか。そういうことを頭の中に置いていれば、周りから『早くマラソンをやれ』とか『無謀なことをやっている』『何も考えていない』などと言われても気にすることはない。自分の陸上人生だから、自分が納得してやることが一番必要だと思いますね」

「20代はどんどん欲を出していきたい」

 その意味でも今年は、1万メートルでの8月の世界選手権出場を狙いたいと言う。その前提は今28分20秒台の自己ベストを参加標準Bの28分05秒にあげることだ。出場の可能性を少しでも広げた上で6月の日本選手権で勝負して、その中で27分台を出せればマラソン挑戦への大きな弾みにもなる。

 現在の日本の男子マラソンが少しずつ力を取り戻しつつあるのは事実だ。2時間8分台の選手が多く出てきただけではなく、宇賀地や宮脇など多くのスピードランナーもマラソンを意識するようになった。その中で柏原は「まずは2時間6分台は出したい」と言う。
「多分、そこまでいったら当然、欲は出ますよね。競技をしているうちはずっと『ああしたい、こうしたい』という欲は出るものだから、僕も20代のうちはどんどん欲を出していきたいですね。2時間5分台というのはまだ日本人が出していない未知の記録で、どういう方法が正解なのかはわからないかもしれないけど、技術や科学は進化しているし整った環境もあるから、出さなきゃいけないものだと思います。日本のやり方が間違っていないと証明するのは僕らの世代の役割だと思うから、僕もその一角になりたいですね」

 そのためにも周囲に流されたり、焦ったりすることなくマラソンへ向かっていきたいと言う柏原。社会人2年目を彼は、その足元をしっかりと固めるためのシーズンにしなければいけない。

<了>

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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