清水エスパルスが直面するかつてない危機=方針転換したゴトビ監督にのしかかる重圧

飯竹友彦

「ゴトビ辞めろ!」サポーターからの怒声

ホームで広島に大敗し、肩を落とす清水の選手たち。ふがいない結果と内容にサポーターも怒りをあらわにした 【Getty Images】

 清水エスパルスは3月30日、ホームで行われたJ1第4節のサンフレッチェ広島戦で0−4と大敗した。これで、昨年11月3日のヤマザキナビスコカップ決勝戦から公式戦12試合連続未勝利。後半早々にDF岡根直哉が退場するという不運も重なったが、今シーズン3度目の大量失点と、そのふがいない内容にサポーターの怒りは収まらなかった。

 試合後には、23日のナビスコ杯予選第2戦のジュビロ磐田戦(1−5)に続き約300人のサポーターがチームバスの出入り口を封鎖。アフシン・ゴトビ監督、原靖強化部長、竹内康人社長らが話し合いの場を設けたが、サポーターからは、「ゴトビ辞めろ!」、「強化部は責任をとれ」という怒声が飛んだ。しかし、ゴトビ監督は、「わたしたちは辞めない。巻き返せると信じている。時間がほしい」と断固拒否。竹内社長も、「(監督更迭は)今の段階では考えていません」と繰り返すばかりで、話し合いは平行線をたどった。そして気がつけば試合終了後3時間を過ぎ、辺りは暗闇に包まれていた。

新シーズンへの期待は大きかったはずだが

 ゴトビ監督は、2011年シーズンを前に清水の指揮官に就任。前年のシーズンをもって6年間チームを率いた長谷川健太氏が退任し、その後を受け継ぐ形となった。しかし、同オフにはそれまでチームの屋台骨を作っていた主力選手が大量に清水を後にする。残留したのは試合経験の少ない若手が多く、指揮官がオファーを受けた段階でイメージしたものとはまるで違う状況からチーム作りをスタートしなければならなかった。しかし、クラブハウスで開かれた就任会見では、「ビルドアップ(若手育成)と勝つこと。この2つをうまく組み合わせてやっていきたい」(アフシン・ゴトビ監督)と自信を持って答えていた。

 実際、就任1年目は、小野伸二や高原直泰、岩下敬輔らをチームの軸に配置し、その周りを中堅選手や、加入1年目の村松大輔や高木俊幸ら若い選手で補いながら戦った。FWを3人起用し、ピッチをワイドに使うオランダスタイルを浸透させるのに時間がかかり、なかなか多くの勝利には恵まれなかったが、起用した大前元紀のブレイクなどもあって、リーグ戦を10位で終えることができた。

 就任2年目はさらに積極的な若手起用を進めながらも、しっかりと成績を残す。リーグ戦では9位と就任1年目から順位を1つ上げ、ナビスコ杯では準優勝。獲得したばかりの吉田豊、イ・キジェに加え、大卒ルーキーの河井陽介や、2種登録した石毛秀樹の活躍もあって、若手中心のチーム作りが進んでいたように見えた。

 そして迎えた3年目。過去2年の成績を受け、新シーズンへの期待は大きかったはずだ。しかし、ふたを空けてみれば開幕から勝利は遠く、不名誉な記録だけが伸びている。

若手がベテランの実力を凌駕していたのか

 順調に見えたチーム作りの道程。しかし、その裏で表面化していない不安要素もあったのは間違いない。そして、それが現在の12試合勝ちなしという状況を生んでしまった可能性は高い。

 その理由として、まず1つは指揮官の押し進めた若手主体のチーム作りが挙げられるだろう。脱ベテランについては前述したような理由もあり、ゴトビ監督は積極的に若手を起用しなければならない背景があった。その結果、抜てきされた若手が急激に力を伸ばしていったのは間違いない。新しい戦術をチームに落とし込むには、固定概念のない若い選手のほうが使いやすかったという点もあるだろう。その結果、小野、岩下、枝村匠馬、アレックス、辻尾真二らはシーズン途中でチームを離れることになったし、オフには高原や小林大悟らもチームを去っていった。

 また、若手路線へのシフトにはクラブの資金的な問題もある。清水は純資産や年間人件費、予算規模も中位でビッククラブではないため、高年俸のベテラン選手を多く抱えるのは難しい。そうした背景は理解しなければならない。しかし、お金の問題だけで本当に必要な選手、財産をチームに残さなくても良いかと言えば、それは違うだろう。若手が伸びているとはいえ、起用した選手の実力が完全にベテラン選手を凌駕(りょうが)したのだろうか。そうとらえるのは早計だったのではないか。そうした疑問はぬぐえないというのが、ここ2年の状況だった。

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著者プロフィール

1973年生まれ。平塚市出身。出版社勤務を経てフリーの編集者・ライターに。同時に牛木素吉郎氏の下でサッカーライターとしての勉強を始め、地元平塚でオラが街のクラブチームの取材を始める。以後、神奈川県サッカー協会の広報誌制作にかかわったのをきっかけに取材の幅を広げ、カテゴリーを超えた取材を行っている。「EL GOLAZO」で、湘南ベルマーレと清水エスパルスの担当ライターとして活動した。現在はフリーランスの仕事のほか、2014年10月より、FMしみずマリンパルで毎週日曜日の18時から「Go Go S-PULSE」という清水エスパルスの応援番組のパーソナリティーを務めている。2時間まるごとエスパルスの話題でお伝えしている番組はツイキャス(http://twitcasting.tv/gogospulse763)もやっています。

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