小野伸二が豪州で達成した史上初の偉業=ACLで実現する“家族”との凱旋

植松久隆

参入初年度Vの偉業

入団当初は懐疑的な声も聞こえたが、小野はプレーで自身の才能を証明し、クラブのシンボルへと祭り上げられた 【写真:アフロ】

 3月29日、小野伸二が所属するウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(以下WSW)は、アウエーでのニューキャッスル・ジェッツ戦に3−0で快勝。Aリーグ史上初となる参入初年度Vの偉業を達成した。オーストラリア・サッカー連盟(FFA)の肝いりで今季よりAリーグに参戦するや、シーズン後半に破竹の10連勝で首位に駆け上がったWSWが、この日もアウエーに大挙として押し寄せ、ホームと見まがうような雰囲気を作りだした。その多くのサポーターの前で大仕事を成し遂げた瞬間、決して長くはないAリーグの歴史の新たな1ページが書きこまれた。

 元々、オーストラリア国内有数のサッカー処と知られるウエスタン・シドニーにAリーグのクラブが無いことは、オーストラリアスポーツ界の“七不思議のひとつ”とも言われてきた。それゆえに、昨季終了後のゴールドコースト・ユナイテッドの消滅を受け、その後釜としてFFAが半ば強引に押し切ったWSWの新規参入は、成立に至る経緯はさておき、地元には大きな歓迎を持って迎えられた。

 その成立を、無理に日本で例えるならば、それこそ「日本の名だたるサッカー処の静岡や埼玉にJクラブが無い」というような異常な状況がようやく解消されたわけで、地元が歓迎するのは当然のこと。おらが町のクラブを待ち望んでいたウエスタン・シドニーの多くの人々は、クラブ設立のその日から非常に熱いサポーターとなり、WSWが初年度から予想外の快進撃を果たす原動力となったのだ。

“Tensai”の証明

 新規参入を果たしたWSWのフロントは、チームをゼロから作り上げる“リアル・サカつく”(編注:「サカつく」とはサッカー運営シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!」の略称)のような大仕事の取りかかりとして、初代監督に日本に縁の深いトニー・ポポヴィッチを招聘(しょうへい)。チーム作りの全権を託されたポポヴィッチは、自らの日本コネクションを駆使して、クラブの初代マーキー・プレーヤー(筆者注:年俸がサラリーキャップの枠外になる特別契約選手)として、迷わず小野伸二を獲得する。

 正直なところ、小野の入団が決まった当初はその活躍に懐疑的な声も聞かれてたが、日本の誇る“天才”は、その才能を周囲に認めさせるのに時間を必要としなかった。加入直後から、プレーの随所で見せるクオリティの高さは見るものをうならせ、ファンにもチームメートにも愛される人柄の小野は、すぐにクラブのシンボルへと祭り上げられた。

 そんな小野のプレーは、目の肥えたサッカーメディアも魅了した。Aリーグを独占中継するFOXスポーツの名物コメンテーター、サイモン・ヒルは、どこからか仕入れてきた“Tensai”という表現をWSWの試合実況の際に多用する。小野という日本の至宝がAリーグのピッチで輝きを放つたびに、彼の“Tensai”の叫び声がオーストラリア中に響く。そうして、小野の存在は急速にサッカーファンに認知されていき、いつしか小野は、シドニーFCのアレッサンドロ・デルピエロと同等のスーパースターの座を確保するに至る。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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