小野伸二が豪州で達成した史上初の偉業=ACLで実現する“家族”との凱旋

タカ植松

残留が発表されたシドニー・ダービー

来季もWSWでプレーすることが決まった小野は、ACLの舞台で日本への凱旋を果たす 【Getty Images】

 今季、シーズンを通して活躍し、自ら言うところの「久しぶりにサッカーを楽しめている」という状況に身を置く小野。シーズンも終盤に掛かると、当然、その去就に大きな注目が集まった。主力選手が、次々と“クラブ愛”をことさらに語った上で契約を更改していく中、小野の契約延長だけが発表されない。先月、彼の代理人も来豪、クラブのゼネラルマネジャー(GM)と並んで試合観戦している姿も見られるなど交渉難航は考えにくいにも関わらず、進捗が見られない状況に「もしや残留はないのか……」と邪推の念もファンの間ではあがり始めていた。

 しかし、チームの優勝争いもたけなわのシドニー・ダービー前日、ついに小野の契約延長が発表された。契約更新後の記者会見で、小野はクラブを「本当の家族のよう」と表現、彼なりの言葉でクラブ愛を語った。後で思えば、ダービー直前というタイミングを明らかに狙った「エース残留」の朗報に、チームは気をよくして、翌日のシドニー・ダービーに臨むことができた。

 その今季3度目(筆者注:Aリーグは各チームが3試合ずつ対戦する変則日程)のシドニー・ダービーは、ホームの大観衆の前で優勝を決めたいWSW、6位以内のファイナル圏内確保には負けられないシドニーFCと両チームの意地が激突、予想に違わぬ激しいゲームになった。両チーム合わせて、レッドカード2枚、イエローカード8枚が乱れとんだ乱戦は、シドニーFCがデルピエロの技ありのゴールで先制するも、WSWが後半68分に追いつき、1−1のドローで痛み分けに終わった。この結果、WSWのホームでの優勝確定はならなかった。

 この試合、先発出場した小野は、後半49分にファウルで倒された後、太腿を気にする素振りを見せながらもプレー続行。しかし、その5分後の後半54分には痛めた足を引ききずりながらピッチを後にした。

万全を期すセミファイナル

 気になる小野のケガの状態を、ポポヴィッチ監督は、試合後に「グローインだが、明日(24日)、スキャンしなければ何も分からない」と話すにとどめたが、28日の会見では「スキャンの結果、さほど深刻なものではないようだ。2週間後のセミファイナルでの復帰を待ちたい」と、重症に至らなかったことに安堵(あんど)の様子を見せた。

 このケガで最終節の出場を逃した小野は、優勝の行方をアウエーながら帯同して見守り、優勝の瞬間をしっかり目に焼き付けてから、ピッチに立った。チームメートやサポーターと快挙達成の喜びを分かち合う小野の顔には、充実感と達成感に満ちた会心の笑顔が見えた。

 シーズン優勝を果たしたWSWは、この後、4月7日から始まるシーズン6位までのクラブが変則的なトーナメント方式で“ファイナル王者”を争うファイナル・シリーズで、ふたつ目のタイトルを狙う。セミファイナルからの参戦となるWSWは、4月12日、セミファイナルに勝ち上がってきたクラブの内のシーズン順位が低い方をホームで迎え撃つことが決まっている。ちなみに、締め切り時点では未確定だが、現在6位に付けるシドニーFCがファイナルに滑り込み、一発勝負のクォーター・ファイナルに勝てば、今季4度目のシドニー・ダービーがファイナルでも実現する可能性が低くないことも付け加えておこう。

休むことなく燃やす闘志

 小野は、昨年、急きょ降り立ったシドニーの新天地WSWと“相思相愛”とも言うべき良好な関係を築き、シーズン優勝という目に見える大きな結果を残した。

 日本で“天才”と称されたフットボーラーが、33歳というキャリア後半に出会った場所、シドニー。直接聞いた本人の話、周辺の色々な人々の話を総合しても、彼がこの地での滞在をエンジョイしていることは間違いない。小野が、WSWでもう1年プレーをすることを決意した大きな要因に、シーズン優勝により権利を手にするアジアチャンピオンズリーグ(ACL)があったことは想像に難くない。
「WSWをシーズン優勝に導き、来年のACLで日本に堂々の凱旋帰国を果たす」、そんなシナリオの実現を目標に、小野はクラブの先頭に立って戦い抜き、夢舞台への切符を自ら勝ち取った。

 34歳で迎えるWSWでの2年目のシーズン。クラブの熱いサポーター、そして懸命に声援を送るオーストラリア中のファンに、より多くの“Tensai”のきらめきを見せ、それと同時に、ACLというアジア最高の舞台で自らの存在感を大いに発揮する――それこそ、小野本人が来季を己のサッカー人生のハイライトと描いていてもおかしくない。

 小野伸二は、シドニーでの輝かしい1年目のシーズンのその先をしっかりと見据え、内なる闘志を休むことなく燃やし続ける。

<了>

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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