新怪物・安樂智大が甲子園で刻んだ「はじめの一歩」

寺下友徳

NPBスカウト陣が「すごい」とうなった「152キロ」

初回に152キロを計測した済美の2年生エース・安樂智大 【写真は共同】

「自信を持って最善の努力をしたいです」

 午前7時半。甲子園球場一塁側室内練習場。まるで全盛期のマイク・タイソンのように額に大粒の汗を浮かべながら、最速152キロ、大会最注目の怪物右腕・安樂智大(済美高)は187センチ85キロの体を真っすぐに立て、報道陣の取材に答えた。

 その汗は昨秋公式戦、3月の練習試合で続いていた立ち上がりの不安定さを解消する取り組みのたまものである。普段は30球程度のピッチングを50球に増やし、ダッシュの量も増やすなど、「どれだけ走ったら良い調子になるか知っている」と安樂とともに投手陣を支える山口和哉(2年)も舌を巻くほどの修正力。よって「これまでのことを振り返りながら思い切って投げる」ことを決めていた148キロストレートから始まった甲子園のマウンドは、強打の広陵高(広島)と対峙した初回からクライマックスを迎える。

 広陵高の攻撃、2死三塁で4番・太田創(3年)への4球目に、この日2度目の150キロで追い込むと、次の空振りは自己最速タイに並ぶ「152キロ」。「伸び上がってくる感じ。今までみたことのないボール」(太田創)。甲子園を包む何とも言えぬどよめき。顔を思わず見合わせたNPBスカウト陣の「すごい」のささやき。2年生の甲子園最速記録を塗り替えたこの瞬間、入学直後に144キロ、1年夏に愛媛大会で148キロ、1年秋に四国大会準決勝で152キロをマークした怪物は早くも甲子園の歴史に名を刻む男となったのである。

またもはまった「最終回の呪縛」

 安樂の独り舞台はその後も続く。6回裏無死一・三塁の好機で打席に立つと、試合前夜に上甲正典監督から打診を受け「自分は4番がいいと言った」自負をバットに乗せ、右越えの先制2点二塁打。奇しくも、昨夏、1年生右腕として甲子園を沸かせた岸潤一郎(明徳義塾高2年)から3月10日の練習試合で放った弾道と同じだった。
 一方、投げては8回まで4四球を与えるも2安打9奪三振。「まだまだ荒削りだけど、大会ナンバー1投手。末恐ろしいね」と普段から安樂を見続けている白武佳久・広島東洋カープ中四国担当スカウトも改めてすごみを語る中、試合は3対0で最終回を迎えようとしていた。

 ただここで、彼は立ち上がりに続くもう1つの課題を克服しきれなかった。先頭打者に安打を許すと3安打を集中されまさかの同点。

「自分の弱さが出ました」

 昨秋の四国大会準決勝で鳴門高(徳島)に3点差をひっくり返されサヨナラ負けして以降、半ばチームのトラウマになっている「最終回の呪縛」。そこに豪腕は、またもはまってしまった。

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著者プロフィール

1971年、福井県生まれの東京都東村山市育ち。國學院久我山高→亜細亜大と進学した学生時代は「応援道」に没頭し、就職後は種々雑多な職歴を経験。2004年からは本格的に執筆活動を開始し、07年2月からは関東から愛媛県松山市に居を移し四国のスポーツを追及する。高校野球関連では「野球太郎」、「ホームラン」を中心に寄稿。

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