ゼロックス杯を彩った36体のマスコット=クオリティーの高さが老若男女を笑顔に

宇都宮徹壱

佐藤のスーパーゴールと途中交代

今季最初のタイトルを獲得した広島。決勝ゴールを挙げた佐藤が笑顔でトロフィーを掲げる 【宇都宮徹壱】

 2013年のJリーグは、昨シーズンの得点王、サンフレッチェ広島の佐藤寿人によるスーパーゴールで幕開けとなった。

 2月23日に東京・国立競技場で行われた、リーグチャンピオン広島と、天皇杯覇者の柏レイソルによる富士ゼロックススーパーカップ2013(以下、ゼロックス)は、前半29分の佐藤のゴールを守り切った広島が1−0で勝利し、08年以来となるスーパーカップのタイトルを獲得した。この試合、私はゴール裏でカメラを構えていたのだが、佐藤が放った美しいボールの軌跡を間近で拝む僥倖(ぎょうこう)に恵まれた。左サイドで森崎浩司のパスを受けた青山敏弘がクロス。これをペナルティーエリア前まで前進していた水本裕貴がヘッドでつなぎ、最後は佐藤が左足ボレーでたたき込む。ボールはバー右隅の下に当たり、そのままゴールへと吸い込まれていった。

 1点を追う柏は、元日まで戦っていた影響に加え、3−4−2−1という新システムへの適応に苦労している様子がうかがわれた。「ACL(アジアチャンピオンズリーグ)対策」として今季からチームに加わった長身FWのクレオ(前広州恒大)も、およそフィットしているとは言い難く、前線での停滞感を顕在化させた。だがそれ以上に、終盤の柏の猛攻をしのぎきった、広島守備陣の集中力の高さは評価されるべきだろう。森保一監督は「まだシーズンは始まったばかりで、やろうとすることの完成度は足りていないと思う」と語っていたが、広島の強さは今年も健在であることを予感させる試合運びであった。

 一方で気になったのが、けがのため後半15分でベンチに下がった佐藤のことである。森保監督は「重症ではない」としながらも「昨日の長時間のイベントで、立ちっぱなしで体調も良くなかった」ことを明かした。イベントというのは、開幕直前に全Jクラブの監督と選手代表、そして関係者が一堂に集う「Jリーグキックオフカンファレンス」のことである。私も出席していたが、ユニホーム姿でずっとメディアやスポンサーに対応している選手たちの姿を見て「大変だなあ」と思ったものだ。もちろん選手の大切な仕事のひとつであることは重々承知しているが、少なくとも翌日が試合の選手に関しては、多少の配慮があっても良かったように思う。今後の改善を強く望みたい。

Jのマスコットは「日本が誇るべき文化のひとつ」

試合前に会場を大いに盛り上げたマスコットたち。今年は全国から過去最多の36体が集結 【宇都宮徹壱】

 さて、ゲームに関する記述はここまでにして、ここからはゼロックスという大会を彩った、もうひとつの重要な要素について言及することにしたい。それは、各クラブのマスコットたちである。昨年のゼロックスでは、J1のマスコット18体が国立に結集してファンの間で話題になったが、今年はなんと前回の2倍、J1・J2合わせて実に36体ものマスコットが一堂に会したのである。マスコットを持たないFC岐阜を除く39クラブのうち、ガイナーレ鳥取のガイナマン、ヴィッセル神戸のモーヴィ、ロアッソ熊本のロアッソくんを除くすべてのマスコットが、この日のために全国各地から駆け付けたのである。この驚異的な参加率、まさに空前絶後と言うしかない。

 このマスコットプロジェクトに尽力したのが、株式会社Jリーグメディアプロモーションの山下修作さんである。山下さんはなぜ、マスコットを集めることに思い至ったのか。根底にあったのは、ゼロックスという大会の価値の変化である。昨年、この件について取材した際、山下さんはこのように語ってくれた。

「かつてのゼロックスは『キング・オブ・キングス』というテーマで、リーグ戦と天皇杯のチャンピオンが戦う大会という意味合いを強く持たせていました。でもここ数年くらいで、リーグの開幕を祝う大会というか、新シーズンの開幕をみんなで祝うような感じになっていったんです。ですから、どこのクラブのサポーターでも楽しめるような大会にして、メッセージ性を変えていこうと。というのも(ゼロックスの場合)、出場するクラブが毎年どこになるか分からない。それによって集客が左右されるのではなく、どのクラブが出てきても毎年楽しみになるような大会にしていった方が、大会の価値は上がるんじゃないか。ということで、『じゃあ(各ホームタウンの)グルメを呼ぼうよ』という話を代理店の方にしました。その結果、グルメでも一定量楽しんでもらえることが分かったので、次に提案したのがマスコットです」

 山下さんには「Jクラブのマスコットのクオリティーは、日本が誇るべき文化のひとつ」という確信があった。それだけの資産を、Jリーグのイベント集客に生かさない手はない。加えて、かつてはマスコットが大集合していたJリーグオールスターサッカーも、07年以降なくなってしまった(オールスター自体は、Kリーグ選抜との対抗戦に形を変えて09年まで続けられたが、マスコットの出番はなかった)。マスコットファンにとって、何とも寂しい時代がしばらく続く。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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