背水の陣で挑んだアローナ戦=“格闘技の聖地”とヴァンダレイ・シウバ
同階級の選手に初めて敗れたことに衝撃……
最初は「外敵」「悪魔」と呼ばれて憎まれながら、折れることのない心で戦い続けるうち、日本人に最も愛される王者となったシウバ 【スポーツナビ】
翌年4月、ヴァンダレイはPRIDEミドル級GP 2005に出場、1回戦では“柔道王”吉田秀彦を判定で降し、準々決勝では吉田の弟子の中村和裕をTKOしたが、8月にさいたまスーパーアリーナで行なわれた準決勝では、同じブラジル人のヒカルド・アローナに判定負けし、GP2連覇に失敗する。いや、それ以上にショックだったのは1999年9月のPRIDE参戦以来初めて、同じミドル級選手に敗れたことだ。
PRIDE.7でのカール・マレンコ戦での日本デビュー以来21勝を挙げ、ヘビー級のハント以外はことごとく撃破してきた。“グレイシー・ハンター”桜庭和志、“金メダリスト”吉田、“リングスのエース”田村潔司、“パンクラスのエース”近藤有己……日本のトップ選手を総ナメにし、ダン・ヘンダーソンやランペイジも降したヴァンダレイは、まさに“絶対王者”の名にふさわしい男だった。そのヴァンダレイが、同じ階級の選手に負けるとは――
引き上げる通路で流した悔し涙
アローナはローをヒットさせた直後、バランスを崩して倒れたヴァンダレイにダッシュしてのしかかる。上を取ると強烈なパンチと鉄槌を落とした。スタンドで再開されてからも、アローナは弾丸タックルで吹っ飛ばして倒し、パウンドを浴びせた。いつもなら上になってパウンドで叩きのめすのはヴァンダレイの方なのに……
3−0の判定で完敗した彼は、控室に引き上げる通路で悔し涙を流した。
「無様な自分の戦いぶりが情けなかった。応援してくれたファンも失望させてしまった……」
あれほど無敵ぶりを誇った“絶対王者”の口から、こんな言葉が漏れる日が来ようとは、誰が想像しただろう。
「真の王者を決めたい」再戦を直訴
自信に満ちた、不遜にも見える表情でリングインしたアローナ。一方ヴァンダレイは、どこか吹っ切れたような笑顔を浮かべ、ファンの大声援に応えながら入場する。ブラジル国歌が吹奏されると、ベルトを左肩にかけて目を閉じ、うつむきがちに歌詞を口ずさみながら祈りをささげた。
試合開始直前、静かなたたずまいのアローナに対し、ヴァンダレイは激しく小刻みに体を動かし、エンジンを温めていく。ゴングが鳴った。突っ込んでいくヴァンダレイに対し、カウンターの弾丸タックルで倒すアローナ。このまま4カ月前と同じ展開になるのか!?
しかし下になったヴァンダレイはフルガードの体勢からアローナの腕や頭をコントロールし、パウンドや鉄槌を封じる。そしてアローナの腰を蹴って“柔術立ち”で立つと、再び倒そうと猛突進してくるアローナを投げ飛ばした! 熱狂するファンの声援を背に、ヴァンダレイは仰向けに寝たアローナの脚に蹴りを叩き込む。“絶対王者”が蹴りを出すたび、満場のファンが「オイ!」と叫ぶ。両手を広げて観客を煽りながら蹴り続ける王者。ヴァンダレイは脚を蹴りながら、得意の踏みつけやパウンドのチャンスをうかがうが、アローナは脚で防御して前に出させない。
ブレイクがかかり、スタンドで再開。最初のタックルで倒された時にカットしたのか、ヴァンダレイは鼻のブリッジのあたりから少し出血している。フェイントを出しながらリング場を回りスキを伺う両者。ヴァンダレイがステップインして、左のハイキックから右ストレート。アローナはロープまで吹っ飛び、跳ね返って倒れる! すかさず上にのしかかる王者。アローナは下からヴァンダレイの胴を蹴り上げて突き離し、仰向けになってアリvs.猪木状態(※1)で防御。ヴァンダレイはまた脚に蹴りを入れていき、一発ごとに会場に歓声が轟く。しかしこのままでは大きな進展がない、と判断したのか、王者は相手に背を向けて歩み去り、「立ちな!」と手で合図する。「立ち技で勝負しようぜ」というのだ。