黄金のボールがメッシのものとなった日=史上初の偉業を達成した要因は“底なしの貪欲さ”

沈黙が物語るメッシの主張

 メッシのようなスター選手はめったにいない。ピッチ上で見せるプレーは世界中の注目を集める反面、ピッチ外では沈黙を保ち、公の場に出ることが避けられない場合でも最低限しか言葉を発しない。スポーツ界のスターには、競技中のプレーと振る舞い以外の方法で何かを表現する必要はなく、沈黙はそのことを雄弁に物語っている。

 もめ事は極力避け、プライベートの生活はほとんど表に出さない(昨年11月に父親になった後はさらにその傾向が増した)。それは一般の人々に対する興味がないからではなく、ピッチ外の自分を公にさらす必要がないと考えているだけだ。

 メッシがディエゴ・マラドーナやペレと同様の地位を築くためには、ワールドカップ(W杯)で優勝する必要がある。特にアルゼンチンではそのような主張が根強く存在しているのだが、それも次第に重要なことではなくなってきている。

 ヨハン・クライフもアルフレド・ディステファノも、W杯で優勝したことはない。だが、その事実によって彼らの栄光が陰ることはなかった。

W杯の結果に左右されないメッシの評価

 W杯は4年に一度、わずか1カ月の間に行われる大会だ。その間には気候条件や体調、判定、フットボールの質といった様々な要素に加え、所属する代表チームにタイトルを狙えるだけの力があるかどうかという重要な条件も影響してくる。

 その点、チームは2012年を通して良い結果を出し、代表でのパフォーマンスが向上したメッシも母国で受けてきた批判を一掃することができた。しかし、まだ現在のアルゼンチン代表がW杯で優勝できる実力を証明したと言うことはできない。

 とはいえ、メッシと大多数の母国のファンとの関係は偶然に変化したわけではない。ようやくメッシへのサポート態勢を整えたチーム戦術を見出したアレハンドロ・サベージャ監督は、メッシの要望によりほかに3人のアタッカーを起用する攻撃的布陣を採用しはじめた。そのうち1人(アンヘル・ディマリア)は攻撃に専念する役割を与えられていないものの、ゴンサロ・イグアイン、セルヒオ・アグエロのサポートを得たメッシは以前ほど孤立することがなくなってきている。

 フットボールのような集団競技において、メッシがチームメートの力を借りずに独力でW杯を制するのは難しいはずだ。だが14年のブラジル大会まで1年半と迫った今、われわれは何を明言することもできなくなった。もはやメッシに不可能なことなどない。一人でW杯を制することだって可能かもしれないからだ。

 だがW杯で優勝できなかったとしても、メッシのプレーやスーパークラックとしての評価が変わることはない。そして、これからも困難極まりない記録の数々を残していくことは間違いないだろう。

 ゆえに、現在バロンドールは「黄金のボール」ではなく、「メッシのボール」と呼ぶ方が相応しいのではないか。世界中を見渡しても、彼ほど素晴らしくボールを扱える選手は見当たらない。そしてボールにとっても、誰よりも自身の扱い方を知る彼の元にいることが一番であるはずだからだ。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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