史上初の夢の舞台に挑む鵬翔の強み=攻守に粘り強さを発揮する“和”の力
予期せず現れたダークホース
宮崎県勢として初のベスト4に進み、国立への切符を手にした鵬翔 【写真は共同】
だからこそ、今大会の鵬翔(宮崎)が見せている快進撃には驚いた。1回戦から追っていたにも関わらず、彼らの可能性を感じ取れていなかったからだ。近年の宮崎県は日章学園が5大会連続で代表になっていて、鵬翔は久しぶりの選手権出場だった。鵬翔は5月の県総体も、準々決勝で日章学園に1−4と大敗している。今季のプリンスリーグ九州2部は2位と悪くない成績だが、2部に選手権出場校は参加しておらず、12月22日の1部・2部入替戦も鹿児島実(鹿児島)に敗れた。少なくとも直近の実績は、彼らの台頭を予期させるものでない。
堅守を支える2つの理由
確かに守備は初戦から良かった。松崎博美監督や、選手に話を聞くと堅守の理由が2つ浮かび上がる。一つは矢野大樹をボランチに配置したことだ。県総体の敗退後に、2年からセンターバック(CB)として固定されていたキャプテン矢野が、最終ラインの一つ前に移った。「落ち着いた選手で、人も動かせる。DFに近いMF」(松崎監督)という彼をフォアリベロ的に起用することで、守備のバランスは改善される。180センチを超す両CBの高い能力も、矢野との組み合わせで生きた。
鵬翔の守備はコンバートによってバランスが改善され、さらに実戦を通して成熟も進んだ。夏には2週間に及ぶ関西遠征で関西大、関西学院大といった大学生との対戦も経験した。また地元では同じ学校法人(大淀学園)系列の宮崎産業経営大と練習試合を重ね、「守備意識が芽生えてきた」(松崎監督)のだという。選手も「プリンスでは中盤で拾ってショートカウンターという狙いのはまる試合がいくつかあった。自分たちの守備は全国に通用するんじゃないかと思っていた」(矢野)と、手応えをつかんでいた。
しかし、帝京大可児戦は守備こそ素晴らしかったが、前後半を通じて記録したシュートはわずか1本。鵬翔はJクラブが注目するFW中濱健太が、12月初旬に左膝半月板を手術し、今大会はスタメンから外れている。自陣ゴール前の堅さ、GK浅田卓人の瞬発力を生かしたセービングには驚かされたが、エースを欠く攻撃に迫力は感じなかった。分析しきれない不思議さこそ感じたが、選手権を勝ち上がっていく具体的な見通しは立たなかった。
一晩で鵬翔を目覚めさせた監督の一言
準々決勝は「宮崎県勢史上初のベスト4」(矢野)を賭けた戦いだった。練習グラウンドに「目指せ国立」という看板が立ち、練習を「目指せ国立」と声をかけて終える彼らにとって、ベスト4はまさに夢の舞台だ。鵬翔は8年前の第83回大会でベスト8入りを果たしたが、準々決勝で市立船橋(千葉)に屈し、国立行きを阻まれた。興梠慎三(浦和レッズ)を筆頭に、後のJリーガー5名を擁する強力な陣容でも越えられなかった高い壁である。
しかも準々決勝で当たったのは一昨年の大会で国立に進み、今夏の高校総体も全国の4強入りを果たしている強豪・立正大淞南(島根)だ。今大会は初戦で八千代(千葉)を7−1と一蹴するなど、目に見えて好調だった。鵬翔はまず「簡単に飛び込まないで遅らせる。人間を増やしてブロックを作る」(松崎監督)という守備が、2回戦、3回戦に引き続いて機能した。ドリブル、細かいパス交換に振り切られず粘り強く対応し、立正大淞南はゴールに迫るが、最後の一枚を切り崩せない。
そうしているうちに鵬翔は30分にDF原田駿哉、36分にDF柏田がセットプレーから立て続けに得点し、前半を2−0で折り返す。後半の開始早々にPKから1点を許したが、53分にはMF小原裕哉のFKからDF芳川隼登が鮮やかなバックヘッドで3点目を挙げる。セットプレーから最終ラインの3名がそれぞれ得点を挙げ、優勝候補を3−1と一蹴した。