甲府のコンディショニングが生んだ脅威の“3パーセント”=J1昇格を支えた黒子の力

鈴木智之

ハードなトレーニングだけでは勝てない

 ヴァンフォーレのスタイルは『ムービングフットボール』と呼ばれる、質の高い判断をもとに動いてパスを回し、相手を圧倒して勝つものだ。瞬時の判断が求められ、フレッシュなフィジカルとインテリジェンスが必要になる。ハードなトレーニングだけを課し、回復をおろそかにして、コンディションが低い状態で実行できるスタイルではない。

「身体の疲労感がないと頭もすっきりし、頭と身体が一致した状態でトレーニングや試合に向かうことができます。今季、監督が変わり、新たな戦術にチャレンジしました。開幕前のキャンプから、選手たちがフレッシュな状態でトレーニングに臨むことができていたので、戦術の浸透も早かったように感じます」

 ヴァンフォーレは、99年のJリーグ参入以来、13年間に渡って、開幕戦に一度も勝ったことがないという興味深いデータがある。それが今季、監督が変わって新たなスタイルで臨んだにも関わらず、開幕戦で史上初の勝利を記録し、開幕3連勝をマークした。これも、プレシーズンでコンディション面を含め、質の良いトレーニングを積むことができたからにほかならない。

 シーズンが始まってからは、城福監督を中心に試合を分析し、改善点を選手に伝えて、トレーニングで修正するという作業を繰り返してきた。選手、監督、コーチングスタッフ、フロント、そしてサポーター。すべての歯車がかみ合い、ひとつの大きな車輪となって進んでいた。それが、24戦無敗という記録を打ち立て、J1昇格を果たした原動力になったのである。

成長を積み上げ続けることでJ1を戦い抜く

 現在、ヴァンフォーレには、専用の練習場もなければ選手のロッカールームもない。市内のグラウンドを転々とし、コーチがライン引きからトレーニングを始めることもある。そうした限られた環境の中でつかみ取ったJ1の舞台。昇格したとは言え大幅な環境改善や選手の補強は期待できないだろう。

 しかし、来シーズンの戦いに向けて谷は力強く言う。

「J1に上がったとはいえ、考え方のベースは変わりません。J1の強さ、速さに慣れること。それをプレシーズンで準備し、城福さんがよくいう1節より5節、5節より10節と、戦っていく中で成長していく。うちはお金を出して能力の高い選手をたくさん取ってくることのできるクラブではないので、いる選手、いるスタッフが日々成長していくことが大切です。J1を戦っていく中でどうするかを考え、1試合、1試合、成長しながら積み上げていくしかない。それが来年の作業になると思います。J1になったからといって。コンディション作りの思考を変えることは考えていません」

 1節より5節、5節より10節とチームが成長していくことができたら、J1でも充実したシーズンを過ごすことができるだろう。

<了>

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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