甲府のコンディショニングが生んだ脅威の“3パーセント”=J1昇格を支えた黒子の力

鈴木智之

ダヴィが活躍した最大の要因

コンディションを保つことで、ポテンシャルを存分に発揮し、J2得点王に輝いたダヴィ 【Getty Images】

 谷はヴァンフォーレの選手たちに、コンディショニングの原理原則をレクチャーした。そこではトレーニングの質と量をコントロールすることだけでなく、『超回復』するための食事、休養、身体のケアの仕方、さらには選手自身にベスト体重を探らせ、その数字をできるだけキープするよう、意識の変化をうながした。ちなみに、キャンプの2部練習時に必要な1日の摂取カロリーはおよそ5000。牛丼特盛に豚汁、サラダを食べて1000キロカロリーなので、これを5食分摂取する必要がある。必要な栄養をとり、しっかりと睡眠をとらないと身体は回復しない。地道なトレーニング、栄養、休息の積み重ねがコンディション向上に必要なことだといえる。

 コンディションを保つことで、ポテンシャルを存分に発揮した選手がいる。それがダヴィだ。彼は11/12シーズンの途中に加入したのだが、当時は移籍の影響もあり、コンディションがベストにあるとは言いがたかった。

「11年のシーズンを終えたとき、ダヴィに『シーズンオフに体脂肪を増やさなければ、来季はもっと良いプレーができるはずだよ』と言いました。するとダヴィは体脂肪を増やすことなく、キャンプインしてくれたんです。今季、彼の体重の増減幅は1kg以内でした。トップ選手は2kg体重が変われば、プレーの感覚を失ってしまいます。ベストの体重をキープし続けることが大切で、彼もその重要性を理解していました。それが、今季の大活躍の一因だと思います」

筋肉系のトラブルによる選手の途中交代は皆無

 ヴァンフォーレの今季のケガ人は、チーム全体の3パーセント以下に抑えられていた。これは驚くべき数字だ。通常、ケガ人の目安は10パーセント。30人中3人程度であれば、それほど悪い状態とはいえない。

 そのことに谷は次のように力説する。「コンディショニングはグループワークです。選手、メディカル・スタッフ、監督、コーチがつながり合って、ゲームのコンディションを作っていきます。それぞれの立場で責任をもって行動することで、チーム全体がうまく回るのです。今季のようにグループワークがうまくいくとケガ人の数は減ります。実際、公式戦で筋肉系のトラブルで途中交代を余儀なくされた選手は皆無でした」

 ケガ人が10パーセントを超えて、5人、6人となってくるということは、グループのどこかに問題を抱えているということになる。トレーニングをオーガナイズするコーチングスタッフには、現状に適したトレーニングの量と質のコントロールが求められるのだ。

「夏場のトレーニングについて、城福監督はかなり意識していました。甲府の夏は、肌を突き刺すような日差しでかなり暑いんです。選手に対して『時間は短いから、ここは集中してやってくれ』というように、強度を保って、ボリュームをうまくコントロールしていました。夏はただでさえ暑さから食欲が落ちます。すると筋肉量も落ちてくるので、パフォーマンスも低下し、ケガのリスクも高まる。そこはチーム全体で気をつけながらやっていましたね。やはり、チームは監督の意向が強く反映されるものなので、監督にこうしろと言われたら、その通りにせざるを得ないんです。でも、城福さんとはコンディショニングに対する肌感覚が共有できたので、選手へのフィードバックもスムーズにできました」
 谷が選手の顔色を見ながら、そろそろ休ませたほうがいいかなと思うと、城福監督が『明日の午後と明後日は休ませるか』と、タイミングよく休息を設ける提案をしてきたこともあった。そして、休息日になると、メディカル・スタッフや選手たちは懸命に回復に努める。その積み重ねがコンディションを作り上げていったのである。

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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