失意のチェルシー、敗戦の理由=最後まで出なかった“あと一歩”

清水英斗

成果を上げていた両監督のさい配

失点の場面でもルーズボールに対する“あと一歩”を出すことができなかったチェルシー 【写真は共同】

 一方、コリンチャンスにもチェルシーをリスペクトしている様子が見られた。準決勝アルアハリ戦は途中出場だったエンリケを、スタメンで右サイドハーフに置いたことだ。チェルシーの左サイドはアザール、アシュリー・コールが躍動する危険地帯であるため、ダニーロのままではスピードや俊敏性の不安が残る。エンリケは豊富な動きで守備の仕事をこなしつつ、攻撃にも絡む活躍を見せ、モンテレイを切り裂いたアザールとA・コールをある程度封じ込めることに成功した。

 ポイントはまだまだある。チェルシーがスピードのあるモーゼスを右サイドハーフに置き、相手のサイドの守備にあるすきを狙って突破を図ったこと。そしてコリンチャンスは、序盤は左サイドハーフに置いていたエメルソンを前半15分辺りからトップ下に移した。これにより、動きの鋭いエメルソンがルーズボールを多く拾い、守備でもボールを奪い取り、カウンターの起点にもなった。

 ベニテス、チッチ、両監督の狙いは明確で、どれもそれなりに成果を上げていた。

勝敗を分けた最大の要因

 しかし、勝敗を分けたのはこのような戦術ポイントではないと感じた。結果は1−0だが、チェルシーもベニテスいわく「4回の決定機」を実際に作ったし、決まらない方が不思議なものばかりだった。内容は互角と言っていい。

 しかし、両チームで大きく違うことがあるとすれば……ぎりぎりの場面であと一歩が出るか、出ないか。これが最大の要因だったのではないだろうか。

 例えば後半29分、左サイドからマタが上げたクロスをフェルナンド・トーレスがフリーでヘディングしようと跳んだとき、CBのパウロ・アンドレは自分のマークを捨て、遅れながらも体ごとトーレスに突っ込み、ヘディングの威力を半減させた。厳密に言えばファウルだったかもしれない、ぎりぎりのプレーだ。一方、コリンチャンスの得点シーンでは、ダニーロがシュートを打ったこぼれ球にゲレーロが素早く反応して詰めたが、チェルシーはボールの落下を見守ったまま誰も反応できなかった。

 要因はさまざまあるだろう。このタイトルに対する気持ちの違い、そしてサポーターの後押し。チェルシーもD・ルイスやラミレスのようなブラジル人選手はこの大会に対するモチベーションが非常に高かったが、チームメートとの温度差は確実にあった。

 さらに、就任後間もないベニテスがチームをいじりすぎたのではないかと感じている。戦術として的確だったとしても、それを実践する選手が頭でプレーするようになってしまうと、ぎりぎりの場面であと一歩が出ない。対するコリンチャンスは、頭と体と心が一つになって戦っている様子が感じ取れた。

 新しいポストに就いた人間は、自分の能力を示すために、前任者とのカラーの違いを出そうと試みる傾向がある。ましてやベニテスの場合、サポーターとの不仲、オーナーの問題もあり、選手の力だけでなく自分の存在も誇示した上で1試合1試合を勝たなければ契約の継続はあり得ないだろう。その結果、ますますチームをいじる必要に迫られるのかもしれない。

 このような状況が、チェルシーをさらなる闇へ引きずり込まなければいいのだが……。

<了>

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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