室伏広治「五輪精神が凝縮した聖火台、新国立競技場に残して」=被災地の子どもたちと聖火台を磨く

高樹ミナ

被災地の子どもたちも聖火台磨きで夢

室伏(右)は「体力の限界に挑戦する姿を見せたい」と現役続行に意欲を見せた 【高樹ミナ】

 室伏は今年、同イベントに陸上競技に励む都内の子どもたち、そして東日本大震災で被災した宮城県石巻市と岩手県宮古市から小中学生を招待した。震災後まもなく被災地へ出向き、交流してきた子どもたちだ。そぼ降る雨と聖火台を磨くごま油にまみれながら、室伏は聖火台の歴史を鈴木親子の話も交えて彼らに聞かせていた。

 室伏が一流アスリートであるゆえんは、こういうところにあるのだろう。長きにわたって現役選手を続けながら、スポーツの振興やスポーツを通じた社会貢献に力を入れていることはよく知られている。

そんな彼を慕う選手は多く、この日も同じ陸上界から北京五輪・男子4×100メートルリレー銅メダリストの末續慎吾(ミズノ)、ロンドンで五輪初出場を果たした男子やり投げのディーン元気(早大)、男子短距離の飯塚翔太(中大)、室伏の妹で女子円盤投げとハンマー投げで日本記録を持つ室伏由佳(ミズノ)、そして6度のパラリンピック出場を果たした競泳の河合純一らが聖火台磨きに加わり、「聖火台に触れたのは初めて。貴重な体験だった」と感激しきりだった。

 室伏は言う。「ロンドン五輪では“Inspire a generation”がキャッチフレーズだった。日本の若い世代も五輪にインスパイアーされた(発奮させられた)んじゃないか」と。また自身が支援する20年夏季オリンピック・パラリンピックの招致活動に絡め、「東京で五輪を開くことができたら、夢や目標を持ちにくいこの時代でも何かを成し遂げようという意欲が沸いてくると確信している」と語った。

 そして、この日はロンドン五輪後から注目されている現役続行についても触れ、「まずは日本選手権を目指そうと思う。体力の限界に挑戦する姿を見せられれば、人々に勇気や希望を与えられると思う」と意欲を見せた。

五輪精神が凝縮された聖火台を新国立競技場に

あいにくの雨模様だったが、イベントの終わりには聖火台に火が灯された 【高樹ミナ】

 聖火台磨きの2日前には新国立競技場の国際デザイン・コンクールで最優秀賞の建築デザインが発表されたばかりだった。一次審査を通過した日本の建築事務所を含む世界11社がエントリーしたコンペの末、19年の完成を目指す新たな競技場は、イラク・バグダッド出身でイギリス在住の建築家ザハ・ハディド氏のデザインに決定。ロンドン五輪で手掛けた競泳会場アクアティクス・センターにも見られる流線型のデザインを得意とし、04年には世界の主要コンクールの一つであるプリツカー賞を女性で初めて受賞した建築家だ。

 室伏も新生・国立競技場を歓迎するが、気になるのは聖火台の行方である。
 コンペに参加した、ある日本の建築事務所の関係者は、「国立競技場の文化財産については主催者側から全部で17項目の説明を受けた。その筆頭が聖火台だった。そこには“活用を検討すること”との一文があるのみで、判断は各コンペティターに委ねられた。だが私たちのプランでは聖火台を残すつもりだった」と話す。決定したデザインの詳細はあいにく公開されていないが、「残す方向で調整されるのではないか」とのことである。

 この日のイベントの終わりに点火もされた聖火台。そのオレンジ色に燃える火を見つめながら室伏はこう締めくくった。

「新しい競技場ができるのはもちろん楽しみだが、東京五輪のレガシー(遺産)は守っていきたい。日本人は物を大切にする国民性。その精神を大切にし、未来に引き継いでいきたい。鈴木さん親子の思いと五輪の精神が凝縮された聖火台を、ぜひ新しい競技場に残して使ってほしい」

<了>

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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