インドネシア武術「シラット」の実体、いざ突撃取材=「帰ってきたシネマ地獄拳」第6回

しべ超二

インドネシアの伝統武術「シラット」を突撃取材(右は講師・ユリ先生) 【しべ超二】

 ウジャウジャと果てることなく出てくる敵がファミコン版「スパルタンX」を思わせ、それをバッタバッタとなぎ倒す主人公の超人的強さ&子どもに見せられないバイオレンス描写で、2012年を代表するアクション映画として記憶されるだろう『ザ・レイド』。

 そんな本作で主人公が使う格闘術としてフィーチャーされているのが、インドネシアを中心とするマレー地域発祥の武術プンチャック・シラットだ。まだ日本ではあまり知られぬこの格闘技の実体に迫るべく、都内で行われる練習に突撃取材を敢行した。

その歴史は1000年、日本の武道とも共通する精神性

【写真2】道着は上下で異なる色を着用、流派により様々なバリエーションがある 【しべ超二】

 プンチャック・シラットは1000年の歴史を持つインドネシアの伝統武術。「イルム・パディ」といわれる「稲の教え」=“実るほど頭を垂れる稲穂かな”を基本精神とし、日本の武道とも共通する精神性を備えている。この日お邪魔した道場でも練習前後に黙想を行い精神を集中。日本人にもなじみある光景が見られた。

 衣装は上着を白、ズボンを黒と、上下で色の異なる道着を着用。帯を締め、結び目は正面ではなく横の腰骨あたりで結ぶ【※写真2】。しかし道着に関しては、あまたある各流派によって理念・動きが異なるように、上下とも白、上下とも赤など、多種多様なスタイルが存在するのだという(この日お邪魔したのはムルパティ・プティ派。ネットで検索すると、黒の上下、黄色の上下など、また全く違う道着が確認された)。

 現在いくつの流派が存在するのか? その数は専門家でも把握し切れないほどだが、このあたりは多民族国家であるインドネシアの実情と関係があるのかも……そんな風に思ったが、いざ空手を鑑みてもやはり無数の流派とスタイルが存在しており、こうした事情というのは万国共通、国が違ってもあまり変わらないものなのかもしれない。

手での攻撃は相手との距離・位置関係により、柔軟に変化

【写真3】打撃技は掌底打ちをはじめ、相手との距離などにより柔軟に変化していく 【しべ超二】

 この日の練習はストレッチ、ダッシュ、腕立てなど準備運度を行った後で、基本の突き・蹴りを反復しながら道場を往復。これは空手とも共通する稽古スタイルだ。ヒジ打ち、手刀、掌底打ち【写真3】、さらには『ザ・レイド』劇中にて&主演のイコ・ウワイスが来日してパフォーマンスで見せた、水面蹴り(=橋本真也)のような足払いも見られた。

 こうした基本稽古を一通り終えると、続いてペアを組んでの対人稽古に移行。ここでは何やらカンフーを思わせる受けや構えも見られる。対人練習は約束組手の要領で、相手が放つパンチや蹴りを受け、あるいはさばいて即座に反撃を入れる。ここでは逆水平(チョップ)、掌底でのアッパーストレートといった技がさく裂。手での攻撃は拳だけにこだわらず、相手との距離・位置関係により、柔軟に変化させて使い分けているようだ。

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著者プロフィール

映画ライター。ペンネームは『シベリア超特急2』に由来し、生前マイク水野監督に「どんどんやってください」と認可されたため一応公認。松濤館空手8級。

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