大谷翔平、メジャー挑戦という究極の決断=ドラフト4日前の表明は正しかったのか

松倉雄太

夢のメジャー挑戦を表明したが……

メジャー挑戦を表明した花巻東高・大谷。最速160キロの怪物右腕は今ドラフト最大の注目選手に挙げられていた 【写真は共同】

 2012年10月21日。野球人・大谷翔平は、現在自らが在籍する花巻東高で会見を行い、意思を表明した。
「日本のプロ野球も小さいころからやりたいと思っていた場所。どちらも憧れがある中で、メジャーリーグへの憧れが強かった。厳しい中で自分を磨きたいというか、そういうところでやりたいというのも、自分の夢でした。自分の意見と両親、周りの意見が食い違うところもありましたが、自分の意見で最終的には決めた。そういうところで迷いがあった。マイナーリーグから(のスタート)かもしれないが、自分自身が納得のいく結果を残したい」

 テレビカメラの前でこう話した大谷。苦しい決断だったことを明かしたものの、カメラの前できっぱりと言い切った姿は、覚悟を決めてすっきりとしているようにも感じられた。
 18歳の大谷自身がNPB(日本プロ野球)入りを勧める声を振り切り、高校入学時からの夢であった米国挑戦の気持ちを押し通した決断は素晴らしいし、大いに評価できる。『頑張ってほしい』というのが、私自身の見解でもある。

 しかし今ドラフトで、藤浪晋太郎(大阪桐蔭高)と並び最大の注目だった大谷が、米国行きを表明したことで、25日にドラフトを控えるNPBの各球団は、対応を迫られることになった。東北楽天の星野仙一監督やオリックス・森脇浩司新監督など、現場レベルの監督もコメントを発表。おおむね、本人の決断、意思を尊重する言葉を発している。
 ただ、取材を進める中で、違和感を覚える声も挙がっていた。中でも多かった意見が、「本人の気持ちは分かるし、応援したいけど、決めるのが遅すぎるよね」というものであった。

ドラフト4日前の表明は配慮に欠けた

 大谷がプロ志望届を提出したのは9月19日。それから約1カ月かけての表明だったのだが、ポイントは意思表明がNPBのドラフト当週、4日前だったということだ。

 初めから米国挑戦一本と決めて、NPBが視野になかったのなら話は別になるが、両方が選択肢にあったわけである。となれば、やはり4日前に意思を表明するというのは、いささかNPBに対する配慮がなかったと言わざるを得ない。これまで全国の選手を何年もかけて見続けてきた、各球団のスカウトが一斉に東京へ移動してドラフトの準備をする週である。

 直前に報道が先行気味になり、ドラフト前に意思表示をしたいという思いもあったのかもしれないが、今がどんな時期なのかということを、本人と周囲はどこまで分かっていたのだろうかと疑問に感じる声もあった。

 さらに、「まだ米国に行くと言っただけで、チームと契約したわけではないのですよね」という意見もあった。今回の意思表明は日本のNPBドラフト向けに行ったと、とらえることもできるのだ。

影響を考えた上での決断だったのか

 日本の高校野球に所属する選手は、プロ志望届を出せるのが9月から。だが、一般的な高校生の感覚では、最終学年になった4月以降、担任や進路指導の教師と進学や就職について話し合いを進めていく。各高校によって状況はさまざまだろうが、半年近い期間がありながら、ドラフト間際までかかってしまうと、各方面にどれだけの影響をもたらすのか。「遅すぎる」という声は、そういったことを危惧してのものでもあった。

 日本の企業から入社内定をもらっている技術者が、入社式の4日前に『やっぱり米国に留学する』と言うと、その企業にどれだけの影響を与えるのか。これは極端な例えだが、そう考えると分かりやすいかもしれない。せめてもっと早くに意思を決めておけば、影響を最小限に抑えられるのだ。

 しっかりとした下地を作らないまま、この時期に表明したのでは、25日のドラフトで強行指名をする球団が出ても何ら不思議はない。夕方5時から始まる1位指名でなくても、残っていれば育成最下位でも指名をできるのが、今のルールだ。そうなれば、4日前に意思表示をしたことがかえって裏目になる。

 夢に向かう決断は素晴らしいが、自分の意思がどれだけ社会に影響を与えることになるのか。そこまで考えた上での決断だったのだろうか。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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