“シドニーダービー”で相対した小野とデルピエロ=オーストラリアサッカーに刻んだ新たな歴史

タカ植松

オーストラリアリーグに誕生した新たな“ダービー”

オーストラリア初のダービーマッチで相対することとなった小野(左)とデルピエロ(右) 【Getty Images】

 オーストラリアリーグ(Aリーグ)で初めて行われる注目の“シドニーダービー”。そこで、シドニーFCのアレサンドロ・デルピエロとウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)の小野伸二、日本とイタリアが誇るレジェンドの競演が実現する。シドニーでは、ある程度話題になっているだろうと思っていたが、試合前日、シティと呼ばれるシドニーの中心街にダービーマッチの盛り上がりを感じさせるものを見つけることはできなかった。

「オーストラリアのサッカー人気なんて、まだまだ、そんなものじゃないの」という声が訳知り顔で聞こえてきそうだが、悲しいことにそれもまた一つの事実である。400万都市であるシドニーの住民の多くは、ダービーの熱狂とはかけ離れたところで日常生活を送っている。

 そもそも、ミラノダービーやマージサイドダービーのような世界有数のダービーマッチには“歴史”がある。その歴史という縦糸に、クラブ設立の経緯やサポーター層の成り立ちなど多くの要素に裏打ちされた“物語”が横糸として織り込まれ、都市全体を包み込むダービー特有の雰囲気ができあがっている。

 そうしてでき上がった世界有数のダービーマッチと同等の盛り上がりを、初めてのシドニーダービーに期待することは非常に酷なことであり、今後、シドニーダービーが国内屈指のダービーに成長するには時間を重ねる必要がある。だが、さまざまな文化を持つシドニーという都市は、素晴らしいダービーマッチを育てる高いポテンシャルは有していることは間違いないだろう。

 今季のAリーグは、デルピエロ、小野以外にもエミール・ヘスキー(ニューカッスル)が入団するなど、相次ぐ大物の加入でメディアの露出も格段に増えた。実際、10月最初の開幕週にはリーグの最高観客動員数を更新するなど、例年にない盛り上がりを見せている。

 そのAリーグで、今季一番の注目カードとなったのがシドニーダービー。昨季限りで消滅したゴールドコーストに代わり、オーストラリアサッカー協会(FFA)の肝いりで設立されたWSWの新規参入で誕生したダービーマッチ。そこにデルピエロと小野という2大スターの競演が花を添えることになり話題性も十分だ。 

 オーストラリア随一のアジアサッカー通として知られるサッカー・ジャーナリストのマイク・タッカーマンは、シドニーダービーの意義を「オーストラリア最大のスポーツマーケットであるシドニー都市圏で行われるダービーマッチに大物選手の出場することは、大きな訴求効果を見込めるだけに、その意味は大きい。メディアの露出が増え、ライトなファン層にアピールすることで、新たなファン層の開拓などの直接的効果を多く見込める」と語る。

興奮に包まれるダービーマッチ

 快晴に恵まれたダービー当日。試合が行われるシドニー西郊のパラマッタ・スタジアム周辺は、試合開始の2時間近く前から、前日のシティでの無関心がうそのような熱気に包まれていた。スタジアムまでの道すがらのパブはこれからゲームに向かう人で埋まり、その横を熱狂的なWSWサポーター集団が気勢をあげながら進んでいく。彼らのチャントは、スカイブルーを身にまとうシドニーFCサポーターを容赦なくこき下ろし、イタリアの至宝デルピエロにも遠慮は無い。そこには、紛れも無いダービーマッチの熱狂があった。
 スタジアムで見かけた多くのサポーターには一様に、“おらが町のチーム”を誇る表情が見えた。しかし、その中には今までAリーグを観戦したことのない人も多く含まれる。設立から半年を経ずして地元に愛されるチームに育ったWSWは、新たなファン層を開拓してスタジアムへと呼び寄せた。これぞまさに、タッカーマンが語った直接的効果の表れである。

 歴史的なダービー初戦の目撃者になろうと詰めかけた1万9146人の観衆で、スタジアムの興奮は試合前から高まるばかり。貴賓席には、FFAのフランク・ローイ会長、サッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)のホルガ―・オジェック監督などオーストラリアサッカー界の大立者が顔を揃え、チームに招待された在シドニー総領事や日系企業のトップの姿も見えた。メディア席には、イタリアのメディアと思しき姿、現地邦字メディアを含む日本のマスコミも数社取材に訪れるなど、この試合の関心の高さがうかがえた。

 選手入場を告げるアナウンスが、興奮に包まれたスタジアムに響く。見慣れた“ビアンコ・ネロ”(ユベントスの愛称)ではなくスカイブルーのユニフォームに身を包んだデルピエロが悠然とピッチに歩を進める。デルピエロは、前節のニューカッスル戦で芸術的なフリーキックを決め、チームの勝利には繋がらなかったものの最低限の結果は出しているため心のゆとりがあるのだろう。一方、小野は先の2試合でチームはまだ得点を上げておらず、このダービーで何とか点に繋がる働きをしなければならないと引き締まった表情を見せていた。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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