“シドニーダービー”で相対した小野とデルピエロ=オーストラリアサッカーに刻んだ新たな歴史

タカ植松

千両役者の一振り

小野はリーグ最下位のチームについて「得点が入れば変わる」と前向きに語った 【Getty Images】

 試合開始時点で、暫定最下位とブービーの対決となったこの試合。ダービーマッチというだけでなく、今季初勝利を賭けた戦いでもあり、予想通りに開始早々から激しい試合となった。立ち上がりからアウエーのシドニーFCが鋭い出足でWSWに襲い掛かるも、WSWは小野にボールを預けてピッチを広く使う攻撃で対抗する。前半のデルピエロは、ボールを簡単に奪われる機会が多く精彩を欠いていた。一方の小野は、シンプルにパスをさばき、WSWの攻撃をリードしてピッチに大きな存在感を発揮した。

 迎えた後半。攻めながら、なかなか点が入らないWSWを尻目に、シドニーFCが先制の好機をつかむ。後半7分、ゴール前でボールを受けたデルピエロがDFをかわしつつペナルティエリア内に侵入。DFの間をすり抜けようとしたところで倒され、PKを獲得。決まったかに見えたPKはまさかの蹴り直し。その二回目のPKを阻まれたデルピエロは、相手GKからの跳ね返りに鋭く反応、冷静にゴール右上に蹴り込んで先制。それまでの出来の悪さを一瞬で霧消させた千両役者の一振りが、そのまま決勝点となり、歴史的なダービー初戦の軍配はシドニーFCに上がった。

「点が入れば、チームも変わってくる」

 WSWは、この試合の負けで開幕から3戦無得点の未勝利(1分け2敗)で最下位に沈んだにも関わらず、パラマッタ・スタジアム全体に何とはなしの充足感が漂っていた。試合には敗れてしまったが、ダービーの初戦の目撃者となったという経験は、満員の観衆を充足感とともに家路に着かせるには十分だったのであろう。

 試合後、取材陣の前に立った小野には、当然ながら満足した表情は見られない。チームの状態を「日を追うごとに連携は良くなっている」と評し、「270分、点が入らない現状は我慢のしどころだが、点が入ればチームも変わってくる」と前を向く。ダービー初戦に敗れたことに関しては、「こんなに多くのサポーターが駆けつけてくれたのに、がっかりさせてしまって、申し訳なく思っているし、反省している。次のアウエーできっちりと勝ち点を上げられるように頑張りたい」と噛みしめるようにコメントした。一方のデルピエロは、小野の囲み取材の間に引き揚げてしまい直接話を聞けなかったが、ピッチから戻ってくる際には満面の笑みを見せていたので、勝利と自らのゴールに満足していることは想像に難くない。 

 試合翌日、地元紙の紙面に踊ったのはゴールを決めて舌を大きく出して派手に喜ぶデルピエロの姿。試合後、現地紙の記者にデルピエロの感想を聞かれ、「一つ、一つのプレーは見る人を魅了してたと思うし、テクニックもさすがに優れているなと感じた」と淡々と感想を述べた小野だが、次こそは自分の力でチームをダービーでの勝利に導きたいという思いを秘めているはずだ。

 次のダービーの翌朝、紙面に踊る小野の歓喜の姿を今から楽しみにしておきたい。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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