岐路を迎えたリヴァプールが目指す目標=東本貢司の「プレミアム・コラム」
「プレミアのタイトルを得られたら奇跡だ」
リーグ戦6試合目にしてようやく初勝利を挙げたリヴァプール。主将のジェラード(中央)もクラブの未来に悲観的だ 【Getty Images】
ましてや、彼らが誇りとするキャプテン、スティーヴン・ジェラードの厭世(えんせい)的な言葉を聞けば、恨めしげにため息をつくばかりでしかないだろう。
「自分が引退するまでに、このクラブにプレミアのタイトルがもたらされる日が来るとしたら、それは奇跡だ」
32歳。キャリアの潮が引いていく兆しを感じているのか、確かに最近のジェラードには、彼の代名詞ともいえる底なしの馬力と「Never say die」の気迫が、今一つ感じられない。ヒルズボロ事件(※編注:1989年にヒルズボロ・スタジアムで起こった死者96人を出した群衆事故)の「真相の一部」が明かされた直後の“鎮魂の祝祭”、ホームのマンチェスター・ユナイテッド戦では、必勝の気概に燃え、普段の彼らしからぬ怒りをほとばしらせ(スコールズのファウルに対して怒ってかみ付いたこと)、見事な先制ゴールを上げて“復活”を思わせたのだったが……。
やはり、最後には敗れてしまったことが彼の心をひとしきり折ってしまったのか。
「老兵には厳しい時代になった。ギグスやスコールズはよくやってる。自分も見習わないとね」と漏らした。もっとも、ジェラードのこの“感傷”は現実を直視した上での冷静な分析でもあるのだ。
全幅の信頼を置かれるロジャーズさい配
ジェラードが特に推す「いきのいい若手」ナンバー1はラヒーム・スターリングだが、突然いずこからともなく出現した18歳のスーソなる新人も大いに見どころがある。スウォンジーからリクルートしたジョー・アレン(ロンドン五輪・チームGB代表)も、たちまちチームに溶け込んでその献身的プレーが頼もしい。この辺りは、新監督ブレンダン・ロジャーズの眼力と思い切りがプラスに働いていると言うべきだろう。
ジェラードもロジャーズさい配に納得し、ほぼ全幅の信頼を置いているようだ。
「ボスは誰をどう使うべきかの呼吸に長けている。“キープ・ボール”のアプローチを重点的に推し進めていることも含めて、正しい方向を目指していると思う」
いや、そんな分析を聞くまでもなく、今シーズンのリヴァプールは、とりたてて「負けるべくして負けた」というより、けっこう好ましい目の覚めるようなパフォーマンスの印象が勝っていないか?
きびきびとした高速パスワークとプレスチェックは、上位チームと比較しても決して見劣りしない。それどころか、むしろ上回っていると言ってもいい。
それでもなかなか勝てないで来たのは、チームがまだ発展途上だからだ。ロジャーズ流・改造術が始まったばかりの“産みの苦しみ”にほかならない。
変遷期を迎える名門
あとはファンがそれを理解し、本当の意味で長い目を持って見守っていけるか。言い換えれば、いつまでも“プライド”を盾にして語り、不満を垂れ流し、批判するのは控えよう、というジェラードなりのメッセージだと考えればいいのではないか。
それはまた、シーズンが始まって間もなく、オーナー代表のジョン・ヘンリーより発せられた異例の“ファンへの手紙”にて、「決して補強に失敗したわけではない。じっくりと精査し、数年先のタイトル制覇が可能なチームを作るための布石を目指したつもりだ」と、冷静に訴えたこととも呼応する。
単に、勝利という結果が出るのが遅かったというだけだ。ただし、無論ジェラードの示唆する通り、今シーズンも終わってみたらトップ4に入れなかったでは済まされないことも分かっているだろう。80年代を席巻した栄光の名門ならではの宿命である。