岐路を迎えたリヴァプールが目指す目標=東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

最高のスタートを切ったエヴァートン

ロジャーズはリヴァプールを再び優勝争いに絡めるチームに立て直すことはできるのか。若い指揮官のさい配に注目が集まる 【Getty Images】

 いいときもあれば悪いときもある。人の世の習いである。例えば、過去何年間も超スロウスタートが定番だったエリアライバルのエヴァートンが、今季は最高のスタートダッシュを切って、監督デイヴィッド・モイーズが「自分で言うのも何だが、今のエヴァートンは金を払って観る価値がある」と“のろける”ほど、好調を維持している。

 それでも、相も変わらぬ“緊縮戦力”のトフィーズ(エヴァートンの愛称)がこのまま突っ走ってチャンピオンズリーグ入りを果たしてしまう確率は、アーセナルがトップ4を滑り落ちる可能性と比べれば心もとない。

 言い換えれば、エヴァートンも、「数年先のリーグ優勝を目指して再出発」したという意味では、リヴァプールと同様にクラブの岐路に立っているのだ。

 いつもスロウスタートから始まり、何とか最後はヨーロッパリーグ参戦権を争うまではい上がり、「当然今季は……」と希望を持つが、最終的にトップ10ぎりぎりでは、かえってその後の展望に支障をきたす。むしろ、エヴァートンのほうが張り詰めた状況で戦い続けなければならないのかもしれないのだ。

ロジャーズが成すべき戦略

 その点、ジェラードやヘンリーの“割り切り”とロジャーズの“信念”がブレない限り、リヴァプールはじっくりと足元を見据えながら進んでいけるとは考えられないか。

 そこで、ここではロジャーズの立場に立った上で成すべき“戦略”をピックアップしてみよう。

 まず、若き希望の星、スターリングとアレン、スーソについては、慎重かつ大胆に取り扱う。調子がいいからといって、スタメン固定に走り、まかり間違って使い減らしに陥らないように気をつける。さもなくば、年が変わってからの後半戦で“燃え尽き症候群”にかかってフェイドアウトしてしまう心配が出てくるからだ。今のところ、ロジャーズはこの点に気遣っている節がある。

 ちなみに、こわもてっぽいが柔軟性のあるジョンジョ・シェルヴィーは、むしろ固定したほうが伸びるタイプだ。その独特のスケールと威圧感はもはや欠かせない要素かも。

 逆に、突然ベンチウォーマー“以下”に格落ちさせられてしまったジョーダン・ヘンダソン、スチュワート・ダウニング、ホセ・エンリケを、くさらせ続けないように腐心する必要がある。彼らはどうやら“ロジャーズ・プラン”からはみ出しかけているようではある。しかし、あまりに“カメオ出場”(※編注:ほんの短い時間出場すること)が過ぎるようでは、チーム内の雑音や移籍志願の問題まで生じかねない。貴重な戦力には違いないのだから、ころ合いを見て彼らをスターリングやスーソと“掛け合わせる”工夫と勇気が欲しい。それこそが真にチーム充実の昇華につながるはずだ。ギグスやスコールズに自分を重ね合わせているジェラードなら、それを素直に受け入れ、ベンチから見守る役目を喜んで買って出るだろう。

爆発力の鍵は中盤の運動量とスピード

 シーズンを乗り切る上で最も気を遣わねばならないのは、スアレスの取り扱いだ。使い減りの不安がないタフマンなのは分かるが、必ずどこかで調子が落ち、疲労が見えてくることを想定しておく必要がある。というより、スアレス一人におんぶに抱っこではどうしようもない。つまり、ボリーニを早急に「見劣りのない代役」として仕立て上げるべく積極的な起用が望まれる。ボリーニは中盤でも使えなくはないため、サヒンをストライカーとして使う手も面白い。なんとなくだが、ロジャーズにはその思惑があるような気がする。

 現在のリヴァプールに、たまたま大勝したノリッチ戦のような爆発力をそうは望めない。激しい“オールコートプレス”のディフェンスで失点を最小限に抑え、スアレスやジェラードの決定力を中心に勝負するのが基本だ。アッガーとスクルテルのセンターディフェンスにそこそこ信頼がおけるとすれば、鍵はやはり中盤の運動量とスピード、そして機転。いずれ復帰するルーカスや、出戻りのジョー・コールらの出番も想定して、誰が組んでも中盤全域が等しく機能する柔軟性が磨かれていけば、相手にとって厄介なチームになっていく可能性は十分にある。

 ならば、あえて台風の目の存在となってリーグをかき回す“役目”と割り切れば、ジェラードが望んでいたよりも良い結末もあるかもしれない。
 
 そもそも、ロジャーズという若い指揮官の抜てきには、そんなサプライズの期待もあるはずなのだから。

<了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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