予期せぬクルピとの邂逅にも輝く柿谷の才能=成長した姿を見せつけ、C大阪の攻撃をけん引

小田尚史

クルピとのまさかの再会

3度目の復帰となったクルピ監督。かつては叱咤した柿谷が成長した姿に、目を細めているという 【写真:徳原隆元/アフロ】

 前述の活躍により、チームの中心としての立場を確立した柿谷だが、8月21日、突如として練習場に坊主頭で現れた。人生初の丸刈りの理由は、「ここ数試合、結果を残せていないから」。至ってシンプルだった。すると、4日後に行われた第23節・横浜FM戦でゴール。結果を残してチームを勝利に導いた。

 この試合の翌日、C大阪に激震が走った。当初の目標とは大きくかけ離れて残留争いに足を踏み入れてしまったセルジオ・ソアレス監督の解任および、昨季までC大阪を率いていたレヴィー・クルピ監督の就任が発表されたのだ。柿谷はクルピが監督を務めていた2009年途中に、J2の徳島ヴォルティスへ放出(期限付き移籍)された過去がある。才能は評価されながら、度重なる遅刻など素行面を公の場で批判されたこともあった。

 一度は袂(たもと)を分けたクルピとのまさかの再会。8月29日、クルピ監督が復帰して初の練習後、報道陣に囲まれた柿谷はクルピについて問われると、「ここから何日かは聞かれると思いますけど」と苦笑いしつつも、「しっかりプレーして、監督の要求に応えたい。タイミングを見て話もしたい。コミュニケーションは前にいた時よりもしっかり取れると思う。自分からも歩み寄って、レヴィーを尊重して話したい。レヴィーと一緒にいいサッカーをして、残留を勝ち取りたい」と殊勝な態度でそう述べた。

 プロとしてサッカーに取り組む姿勢、そして監督との向き合い方を徳島で覚えた柿谷。J1昇格へ向けてまい進していた昨季、以前の自分との違いについて、このように語っていた。

「徳島に来る前の自分は、結果がすべてのプロの世界で結果が出せなくてイライラしていた。今思うと恥ずかしい言動をしていたことも確か。すべて自分が間違っていたとは思わないけど、(香川)真司君や乾(貴士)君みたいに成功した選手もいるので、今思えば単に自分が未熟で幼かった。今の自分なら、もう少しクルピ監督ともうまくやれるのかな、と思う。今の気持ちであの時の立場にいれば、もっと素直になれたのかなと感じています」。悔恨混じりに過去の自分について客観的に話す姿に、人間としての成長を感じた。

 今回のクルピの復帰とともに、「今の気持ちであの時の立場に居れば、もっと素直になれた」という自身の思いを体現する機会が図らずも訪れたのだ。

 柿谷の姿勢が改まれば、話は早い。元々、2009年にクルピ監督は「ブラジルに連れて帰りたい選手はシンジとイヌイ、ヨウイチロウだ」と話すほど柿谷の能力を高く評価していただけに、両者のベクトルが同じ方向を向くことに時間はかからなかった。

 クルピ監督のさい配初戦となった第24節のアルビレックス新潟戦。決勝点を挙げて勝利に導いたのは柿谷だった。これ以上ない筋書きのドラマに、メディアも一斉に2人の物語を書き立てた。試合後、柿谷の決勝点について問われたクルピ監督は、「特別な思いがゴールの瞬間によぎった。彼がプロ2年目にわたしが監督に就任したわけだが、言ってみれば、彼はかわいい息子。かわいい息子であるがゆえに、過ちを犯した時には正しい道に導く必要があった。今日のように一皮むけて成熟したプレーを見せてくれて本当にうれしく思う」とコメント。以前、「責任感がないがゆえに、時としてとんでもないプレーを見せる」と柿谷を評していたクルピだが、「技術だけではなく、戦術的な部分でも自分の話を理解し、しっかり表現してくれた」と、責任感たっぷりにチームのためにプレーする柿谷に対して、目を細めた。

海外という選択肢が浮上する可能性も

「ミスを恐れず持っているものを最大限に出せ」、「わたしは選手に才能と実力があると思えば若くても勇気を持ってピッチに送り込むが、結果、数字には妥協しない」というクルピ哲学の下、攻撃的な素質を存分に伸ばし、サッカー選手として大きく羽ばたいた香川、乾、清武。同様に、柿谷もこれから先、Jリーグで結果を残していけば、明るい未来が待っている。

 もちろん、J1残留争いの渦中にある現在、C大阪で残留を勝ち取り、チームをさらに上位に導くことが第一だが、現在ドイツで活躍している乾と清武もそろって、「あいつは天才」と語る逸材だ。「今は、そこ(海外)を目標に置いてプレーしているわけではない」(柿谷)と話すものの、近い将来、海外という選択肢も浮上することだろう。

 さらにはもうひとつの未来として、個人的に、そして多くのサポーターも期待するであろうことは、森島寛晃氏、香川、清武と引き継がれ、現在は空き番になっている背番号8を身につけ、C大阪をけん引する姿だ。4歳のころからC大阪の下部組織で育った彼が、セレッソの象徴である“8”をまとい、チームを引っ張ることに、異論を挟む余地はない。

 今回の3度目のC大阪監督就任に際して、「サプライズ。人生、何が起こるか分からないから面白い」と語ったクルピ監督。それは、柿谷についても言える。ティーンのころの眩い輝きから一転、プロでの挫折を経て、現在、再び真のフットボーラーに成長を遂げている柿谷のサッカー人生も、常人では計り知れない起伏に富んだものだ。今はサッカーに夢中になれる環境で、己を存分に磨いている。今後については、プレー同様、先が読めないのである。

<了>

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著者プロフィール

1980年生まれ。兵庫県出身。漫画『キャプテン翼』の影響を受け、幼少時よりサッカーを始める。中学入学と同時にJリーグが開幕。高校時代に記者を志す。関西大学社会学部を卒業後、番組制作会社勤務などを経て、2009年シーズンよりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』のセレッソ大阪、徳島ヴォルティス担当としてサッカーライター業をスタート。2014年シーズンよりC大阪専属として、取材・執筆活動を行なっている。

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