木村沙織が最大の功労者 たくましいエースに成長=元日本代表の大山加奈が解説

構成:田中夕子

3位決定戦で韓国を破り、銅メダルを手にする全日本の選手。右から木村沙織、江畑幸子、迫田さおり、新鍋理沙 【写真:AP/アフロ】

 ロンドン五輪のバレーボール女子3位決定戦が11日(現地時間)に行われ、日本が韓国を3−0(25−22、26−24、25−21)で破り、ロサンゼルス五輪以来、28年ぶりの銅メダルを獲得した。

 この試合について、元日本代表の大山加奈さんに勝負のポイント、見えた課題などについてお話をうかがった。

迫田選手の活躍で普段通りの展開に持ち込んだことが勝因

 28年ぶりのメダル獲得、本当におめでとう! プレッシャーのかかるなかで、メダルを勝ち取ったことを、まずは素直に喜び、称えたいと思います。そして1人のOGとしては、「ありがとう」という思いでいっぱいです。

 最終予選では敗れましたが、近年の対戦成績を見ても韓国は日本にとって決して戦いにくい相手ではありません。ただ、今大会は日本が入ったAグループと比べて、米国、ブラジル、中国、トルコ、セルビアという強豪国ぞろいの予選グループリーグを勝ち抜き、準々決勝ではイタリアを下しての準決勝進出。絶対的な大エースのキム・ヨンギョン選手という存在も含め、侮れない相手でした。

 ところが3位決定戦での韓国は、これまで勝ち上がってきたチームとはまるで違っていました。立ち上がりは明らかに堅さが目立ち、サーブレシーブも乱れ、スパイクは決まらず、簡単なミスを連発する。この試合のポイントが「試合の立ち上がりをどう戦うか」だと思っていましたので、ミスの目立つ韓国に対し、拍子抜けしてしまったのも事実です。
 やはりこれが、メダルのプレッシャーなのでしょうか。

 日本にとっても同じプレッシャーはかかっていたはずです。先に韓国がミスをしてくれたとはいえ、それに付き合ってしまうのではなく、きっちり決めるべき時に決めて得点する。普段通りの展開に持ち込むことができたのが、メダル獲得を引き寄せた要因だったのではないでしょうか。

 取るべき時に得点を取るという面で、この試合の功労者は迫田さおり(東レ)選手です。
 大事な一戦でのスタメン起用、かなりの緊張があったはずですが、もともと韓国戦には相性のいい選手です。竹下佳江選手(JT)のトスも高く供給され、迫田選手は思い切り助走を取り、大きなバックスイングで迷いなくスパイクが打つことができていました。さらに得意とするバックアタックに対しても、韓国のブロックはほとんど対応できていませんでしたね。調子の出ない韓国に対して、勢いを手繰り寄せる存在であったのは間違いありません。

 第2セットも日本が先行する展開でしたが、中盤、終盤に連続得点で追いつかれ、韓国に試合の流れが傾き始めました。しかし24−24のジュースの場面でも、新鍋理沙(久光製薬 )選手のレシーブから竹下選手は、当たっていた迫田選手の攻撃で着実に得点を取り、最後も迫田選手がサーブで攻めた結果、韓国のミスを誘いました。2セット目を取られたら展開は違っていたかもしれません。迫田選手の起用を決めた真鍋政義監督の采配、そしてその期待に応えた迫田選手に感服です。

たくましいエースに成長したサオリ

銅メダル獲得に貢献した迫田さおり(左)と木村沙織 【写真:AP/アフロ】

 攻撃面では迫田選手の活躍が目立ちましたが、銅メダル獲得の最大の功労者は、私はやはり、木村沙織(東レ)選手だと思います。

 あれだけサーブレシーブで狙われ続けても大崩れせず、なおかつ大事な場面では自分が得点を決める。韓国戦では迫田選手、新鍋選手の攻撃が効果的でしたが、その前に木村選手がサーブで着実に相手のウイークポイントを狙って、崩した結果でもありました。

 第3セットの20−19と日本がリードした場面でも、木村選手が光りました。2−0とリードされ、追い込まれた韓国は前衛のレフトにいるキム選手にボールを集め、キム選手は日本のブロック陣の上からスパイクをたたき込みました。決まった、と思うスパイクをナイスレシーブでつないだのが後衛にいた木村選手です。何とかつなげたボールを最後は新鍋選手がうまく打ち切り、21−19と韓国に2点差をつけました。
 決して派手なプレーではなかったかもしれませんが、勝利を引き寄せた素晴らしいプレー、素晴らしいレシーブでした。

 この4年間、エースとして成長を遂げてきた木村選手の存在がなければ、このメダルはなかったかもしれない。いろんな人たちの思いを背負って戦う強さを持つサオリ。本当にたくましいエースです。

 28年ぶりのメダル獲得は本当に素晴らしい快挙ですが、反省しなければならない課題もありました。
 予選リーグで対戦したイタリア、ロシア、そして準決勝のブラジルには完敗を喫しました。その敗因をしっかり振り返り、次につなげなければなりません。

 そして選手やスタッフが成し遂げた快挙を、これからの競技普及につなげることも、私を含めた関係者に課せられた使命だと思います。

 秋に開幕するVリーグでは、多くの選手がプレーしています。1人でも多くの方が、バレーボールを見に来て、その楽しさを味わっていただけるように。その大きなきっかけをくれた荒木絵里香(東レ)キャプテンを中心とする“真鍋ジャパン”の選手たちに、感謝と敬意を込めて「ありがとう」と伝えたいです。

<了>

大山加奈

【大山加奈】

 1984年6月19日生、東京都江戸川区出身。小学校2年の時に地元のクラブでバレーボールを始め、小中高で全国制覇。特に成徳学園高3年時には春高バレー、インターハイ、国体の3冠を達成した。
 その年に初めて全日本に選出されると、同じく高校生でメンバーに選出されていた栗原恵(現:岡山シーガルズ)とともに「メグカナ」コンビとして人気を博す。高校卒業後は東レに入社。ワールドカップ、アテネ五輪に出場する。2007年ごろから椎間板ヘルニアなどのケガに苦しみ、10年に26歳で現役を引退。日本バレーボール機構への出向を経て、現在は東レに広報担当として勤務するほか、バレーの指導、普及活動にも携わっている。
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著者プロフィール

1976年神奈川県生まれ。日本大学短期大学部生活文化学科卒業。なぜか栄養士免許を有する。神奈川新聞社でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部に勤務。2004年からフリーとしての活動を開始。高校時代に部活に所属したバレーボールを主に、レスリング、バスケットボール、高校野球なども取材。

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