バレー女子28年ぶりのメダルは「エース」がカギ=元日本代表の大山加奈が解説 

構成:田中夕子

準々決勝中国戦に勝利し喜ぶ選手たち。左から佐野、竹下、江畑 【Getty Images】

 ロンドン五輪のバレーボール女子準々決勝、日本対中国が7日(現地時間)に行なわれ、日本は中国を3−2(28−26、23−25、25−23、23−25、18−16)で下し、1988年ソウル大会以来、24年ぶりのベスト4を決めた。

 この試合について、元日本代表の大山加奈さんに、勝負のポイント、見えた課題などについてお話をうかがった。

2枚のエースが導いた24年ぶりのベスト4

 やりました! 24年ぶりの準決勝進出。最後の最後、極限に緊張した場面でピンチサーバーとして投入された中道選手のサーブに、しびれました。

 中道選手とは同じチーム(東レ)でプレーをしてきましたが、どちらかといえばああいう場面で「自分が決めて、いいところを持っていくぞ」というタイプではなく、周囲から見ていても心配になるぐらい、心臓が飛び出るのではないかと思うほど緊張する選手です。

 それでも迷いなく、勝負しなければならない場面で攻めのサーブを打ったのは本当に素晴らしかった。最終セットだけでなく、2枚替えで投入された場面でも落ちついてプレーをしていましたし、中道選手は今日の勝利を引き寄せた功労者でした。

 予選リーグを見ていた時点では、不安を感じることもあった木村(沙織=東レ)選手ですが、中国戦はこれまでの試合と全く違いました。

 何より、この試合に懸ける強い決意や気迫が前面に出ていました。サーブを打つ時、スパイクを打つ時の声もよく出ていましたが、相手がサーブを打つ場面でも「来い!」と大きな声を出して、相手にプレッシャーをかけていましたね。
 試合を通してサーブレシーブが大きく崩れることもなく、冷静に、なおかつ熱く。常にチームをけん引していました。 

 攻撃面でも活躍が目立ちましたが、それは木村選手の調子が良かっただけでなく、竹下(佳江=JT)選手のトスも予選リーグの時と比べて高さに余裕があり、十分な助走が取れた状態で打てていたのも一因だったように感じます。
 しっかり助走して、踏み込んで(スパイク動作に)入れているので、スイングにも勢いが生まれる。これまでの5試合を含めた今大会の中で、ベストパフォーマンスと言えるのではないでしょうか。

 木村選手の対角に入った江畑(幸子=日立)選手も、今日は素晴らしかった。上がるトスは決して打ちやすいトスばかりではなく、厳しい場面で打たなければならないケースが何度もあったのですが、そこでもよく打ち切って、決めてくれました。

メダルのためにはエースに頼らないパターンも必要

 象徴的だったのは、最終セット。4−3で日本がリードした場面です。相手に先行されたところから、荒木(絵里香=東レ)選手のサーブで追い上げ、4−3と日本が逆転します。ここで中国も、当たっていたエースの惠若※(※王へんに其)にトスを上げ、惠が強烈なスパイクを放ちますが、このボールを木村選手が完璧なスパイクレシーブでつなぎます。

 まさにエース勝負、というシチュエーションで、江畑選手が大きなスイングから得意のストレートにスパイクを打ち切って5点目をもぎ取る。中国に傾きかけていた流れを、2人のエースが引き寄せた、大きな、大きな1点でした。

 攻撃面だけでなく、守備の面でも中国戦はこれまでの練習の成果が発揮された試合でした。序盤は中国のライトからの移動攻撃に対してほとんど対応できていなかったのですが、2セット目からはしっかりブロッカーがマークし、相手の攻撃に対して確実にワンタッチを取っていました。
 昨秋のワールドカップで敗れた時は、ライトからの移動攻撃を止め切れなかったのですが、早めに対応できたことで相手は攻撃の組み立てを変えざるを得なくなり、攻撃のパターンが絞られたことも勝因の1つと言えるでしょう。

 サイドの攻撃に対しては、ブロッカーに当たりながら弾かれてしまうもったいないボールが何本かありましたが、それを補う竹下選手のレシーブ、フォローが随所で光っていました。普段ならば落ちてもおかしくないボールを、何本も竹下選手がつないで、粘って、ボールを落とさなかった。
 誰より勝負に厳しい竹下選手の、この1戦に懸ける思いの強さが現れていました。

 中国戦はまさに「エース勝負」でしたが、とにかく木村、江畑の両エースにボールを集めた試合は、勝ったとはいえ、見る人の中には「エース頼り」と不安を感じる人もいるかもしれません。
 実際に、メダルを懸けて戦う準決勝以降は、中国戦で高い決定率を残したサイドの2人に対するマークは更に厳しくなるのは確実です。打開するために、もっとミドルの打数や、ライトの新鍋選手の打数が増えればサイドは楽になるのは確かであり、準決勝以降のポイントになるのは間違いありません。
 
 とはいえ、エース、と呼ばれるポジションは、やはり大事な時にはトスを自分に持ってきてほしいもの。「大一番」と銘打って臨んだ一戦で、あれだけ信頼してトスを上げてもらえた。なおかつその試合に勝つことができたというのは、きっと、選手にとって大きな自信になったはずです。

 残りは2戦。絶対に負けられない試合を勝ちきった自信と強さを持って、どんな相手に対しても思い切ってぶつかっていけば、28年ぶりのメダル獲得は決して夢ではありません!

<了>

大山加奈

【大山加奈】

1984年6月19日生、東京都江戸川区出身。小学校2年の時に地元のクラブでバレーボールを始め、小中高で全国制覇。特に成徳学園高3年時には春高バレー、インターハイ、国体の3冠を達成した。
 その年に初めて全日本に選出されると、同じく高校生でメンバーに選出されていた栗原恵(現:岡山シーガルズ)とともに「メグカナ」コンビとして人気を博す。高校卒業後は東レに入社。ワールドカップ、アテネ五輪に出場する。2007年ごろから椎間板ヘルニアなどのケガに苦しみ、10年に26歳で現役を引退。日本バレーボール機構への出向を経て、現在は東レに広報担当として勤務するほか、バレーの指導、普及活動にも携わっている。
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著者プロフィール

1976年神奈川県生まれ。日本大学短期大学部生活文化学科卒業。なぜか栄養士免許を有する。神奈川新聞社でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部に勤務。2004年からフリーとしての活動を開始。高校時代に部活に所属したバレーボールを主に、レスリング、バスケットボール、高校野球なども取材。

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