「北島マインド」が受け継がれた瞬間=ハギトモコラム

萩原智子

トビウオJAPANが見せた「チーム力」

競泳日本チームのチーム力が今回の男女メドレーリレーのメダル獲得につながった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 競泳競技最終日、トビウオJAPANが魅せてくれた。国の総合力が試される大事な種目、男女メドレーリレー。その最も大事な種目で、男女共にメダルを獲得。この1週間、27人で、ひとつのリレーをしてきた日本チームの象徴とも言えるレースだった。正直、感動のあまり、涙が止まらなかった。

 競泳競技で、ここまで「チーム力」を実感した五輪はなかったかもしれない。選手たちは、「チームのために」「チームに勢いを付けたい」と競技後のインタビューで話してきた。その言葉の通り、選手から選手へ、素晴らしいバトンが渡されていった。観戦しているこちらにも伝わるチームの温かく強い雰囲気。スポーツの素晴らしさを実感することもできた。

 競泳は個人競技であって、決して「チーム力」の言葉を使える団体競技ではない。入場し、スタート台へ立った時、たった1人で臨まなければならない。誰も助けてくれる訳でもなく、1人でスタートし、1人で泳ぎ切る。そのため、レース前に大きなプレッシャーを感じ、不安や恐怖心を1人で抱えることになる。スタート前は、「孤独」との戦いになると言ってもいいだろう。この「孤独」との付き合い方が、パフォーマンスにも影響を及ぼす。私も、その「孤独」を経験したことのある1人だ。

 では、「孤独」を「チーム力」に変えるにはどうしたら良いのか?
 選手たちが不安を抱えず、ベストパフォーマンスができるのはどんな雰囲気なのだろうか?
 その問題を解決できたとき、選手は持っている力を発揮し、大舞台で躍動し、記録、結果の向上につながるはず。チームとして、この課題への取り組みは、12年前の2000年シドニー五輪前から始まっていた。当時、日本代表の上野広治ヘッドコーチが中心となり、監督、ヘッドコーチ、スタッフたちは、ミーティングを重ねた。
 そこでヒントを得たのは、団体競技の「チーム力」だった。個々の力を結集し、それぞれの気持ちをひとつにすることで、チームの目的意識を統一できる。世界の大きな壁を乗り越えようと、チーム作り、雰囲気作りを行ってきた。

所属の垣根を越えて作り上げたチーム

 大舞台で、極限の緊張感を感じたとき、選手は「失敗したらどうしよう」「勝てなかったらどうしよう」とマイナス方向へ気持ちが進んでしまうこともある。マイナス思考を始めると、不安は大きくなり、当然のことながらベストパフォーマンスができるコンディション作りは難しい。
 そんなとき、チームの存在があったらどうだろうか。「チームのために」「次の人にいい形でつなげよう」「チームに勢いを付けよう」と自分自身の内側と向き合い、孤独を感じるのではなく、「チームのために、自分自身ができることは何か」と考えることにより、プラス方向へベクトルを向けることができる。

 日本代表チームとして選出された選手や指導者が、所属の垣根を越え、研究や情報交換をし、アドバイスをし合う雰囲気を作り出した。しかし初めは戸惑いもあり、なかなかうまくいかなかった。日本代表チーム内にも、それぞれのライバルが存在しているからだ。

 だが、「チームの輪」「オープンマインド」をチームのスローガンに掲げ、意思統一を図り続けた結果、「担当コーチではないから……」ではなく、日本代表チームの選手、コーチとしてチームワークが出来上がってきた。孤独を感じることなく、プレッシャーや不安、恐怖心をみんなで共有し、みんなで乗り越えていくスタイルができていった。大会前のミーティングでは、メダリストや指導者が、メダルを獲得した時のプロセスや心構えを話した。初出場の選手は、何度も五輪を経験しているような気持ちになり、本番で落ち着いてレースができたという。まさに、自分自身のために、そしてチームのために。

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著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

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