「北島マインド」が受け継がれた瞬間=ハギトモコラム

萩原智子

北島に引っ張られてきた後輩たちがチームを引っ張る存在に

北島の背中を見てきた後輩たちの頑張りもあり、男子メドレーリレーは銀メダルを獲得した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 そんな中で生まれたヒーローが、北島康介選手(日本コカ・コーラ)だ。シドニー五輪からロンドン五輪まで、4大会連続で出場し、チームの成長に大きく貢献した。彼が世界を相手に結果を出していく中で、チームメートに見せてきた姿勢。私も彼と一緒に日本代表チームに入って戦ったことがあるが、日本チームの雰囲気は、「彼そのもの」のようだ。

 世界を相手にチャレンジする姿。自身の限界を作らず、強くなるために探求する向上心。強いライバルを認め、尊敬する心。何があっても勝負から逃げない強い精神力。決して言い訳を言わない強さ。選手を影で支えてくれるスタッフへの感謝。周りを明るくする笑顔。チームへの責任感と誇り。そして何よりも、心の余裕からくる、周りへの優しさ。チーム作りに必要な要素をすべて持ち合わせ、体現してきたのが北島選手だ。

 後輩たちは、世界で結果を出し続けてきた彼を身近に感じることによって、世界と互角に戦うすべを学べたはずだ。約10年間、日本の絶対的なエースとして、チームを引っ張ってきた北島選手。今大会は、世界の強烈なレベルアップと自身の調子が上がり切らず、苦戦を強いられていた。
 そんな中、北島選手の背中を見て成長を続けてきた選手たちが、次々とメダルを獲得。そのたびに、選手たちは「チームのために」と話す。しっかりと「北島マインド」が受け継がれていた瞬間だった。
 今まで北島選手に引っ張られてきた日本チームの後輩たちは、北島選手への感謝の気持ちを込め、今度は自分たちが引っ張っていくのだ! と強い気持ちになっていたはずだ。その後輩たちの姿に、今度は北島選手が勇気をもらっていただろう。

競泳チームの勢いをチームJAPANにも

「One for all All for one」ラグビーで使う言葉だ。「1人はみんなのために、みんなは1人のために」。この言葉が、個人競技の競泳でも生かされる結果となった。

 4年に1度の五輪。厳しい勝負の世界で戦うアスリートの姿に感動する。さまざまな苦難を乗り越え、目指してきた夢舞台。それぞれの背負ってきたものの大きさを垣間見る。当然のことながら、勝つ人も負ける人もいる。残酷な世界でもある。しかし五輪には、勝負を越えた何かがあると感じる。チャレンジすることの素晴らしさ、お互いを認め合う美しい心、仲間を大切に思う温かさと優しさ。五輪は、私たちにたくさんのことを教えてくれる。スポーツの持つ力は、大きい――そう実感する五輪。選手の一生懸命な姿を応援できることに、幸せを感じている。

 ロンドン五輪も後半戦。競泳チームの勢いを受け取り、チームJAPAN293人の心のリレーをつないでほしい。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント