アジアでの勝ち方を見いだした日本 ロンドンの舞台で目指す「新しいステージ」=ビーチバレー男子

ビーチバレースタイル

ロンドン五輪出場権を獲得したビーチバレー日本男子代表チーム。写真は左から朝日、白鳥、青木、日高 【小崎仁久】

 ビーチバレーのコンチネンタルカップ・五輪アジア大陸予選ファイナル2012(6月20〜25日、中国・福州市)が行われ、日本男子代表チーム[朝日健太郎(フォーバル)・白鳥勝浩(湘南ベルマーレ)組、青木晋平・日高裕次郎(ともにフリー)組]は五輪出場権アジア枠「1」をつかみ取った。見事に結果を残した日本チームだが、戦前は厳しい戦いが予想されていた。
 チーム力が問われる3勝先取の国別対抗戦を前に、二転三転したペア構成、大会直前での選手のけが、そして離脱。本来の実力を見せることさえ難しいかと思われたが、若手は気炎を吐き、発憤したベテランは土壇場で巧妙な技を見せた。
 勢いに乗った日本チームは、強豪のイラン、中国、オーストラリアを次々に倒し、奇跡的に頂点にたどり着いた。アジア代表として乗り込む五輪。果たしてこの勢いをロンドンまで持っていくことができるのか。

緊急招集の日高が撃った号砲

「とにかく何が何でもスパイクを思いきりたたき込む」
 チームで最も若い25歳の日高は、それだけを心に留めていた。
 今井啓介(フリー)の故障による離脱に伴い、大会開幕の5日前に緊急招集。パートナーの青木との練習も連携もままならない状態で合流した日高だったが、「チームの皆がやりやすい環境をつくってくれた」と常に全力で右腕を振った。
 日高のしゃにむに強打で攻めていくプレーとコート上でほえ続けるパフォーマンスに、日本チームの士気は上がっていく。
 大会3日目、豪雨の中の準々決勝。先手を取られたイランを相手に、青木・日高組が逆転勝ち。対戦成績を2勝2敗のタイに戻すと、「あのプレーを見たら自分たちが奮起しないわけにはいかない」と朝日・白鳥組がゴールデンセット(タイになった場合、勝敗を決める1セットマッチ)を「気持ちの勝負」(白鳥)で勝ち取った。

 この勝利で日本チームのスイッチが入った。トーナメントの山を上がるたびにチームは団結。「できるだけいいところを伸ばすようにした」と経験豊富な白鳥が、日高に事細かにアドバイスを送りチーム戦術も伝授した。
 準決勝の中国戦では朝日・白鳥組が試合を落としても青木・日高組が拾い、決勝のオーストラリア戦では青木・日高組が落としても朝日・白鳥組がカバーした。

若手とベテランが融合し結束した日本チーム

 ただ、それで簡単に勝てるほどアジアのビーチバレーはやさしくはない。オーストラリアをはじめ強豪国の選手はほどんどが190センチ台後半から200センチの身長。リーチが長いためブロッカーの守備範囲が広い。少しでもボールが低くなると強打はブロックの餌食になり、逃げのショットは反応されレシーブを上げられてしまう。攻撃面でもレシーブ、トスの正確性は高く、ネット幅を有効に使った速いトスまわしで、ワイドに、アップテンポに組み立ててくる。

 それに対し朝日、日高の日本アタッカー陣はネットから2メートルほど離した高いトスを強く打っていくことで対抗。日高は強打で攻めていくことが世界基準だと、ブロックを弾き飛ばすほどのスパイクを最後まで打ち続けた。
 また、決勝では白鳥がスタンドの高さよりも上、コート上空を舞う風をすばやく察知。突然、スカイサーブを打ち、オーストラリアを翻弄(ほんろう)。劣勢の状況を一気に打開した。ゴールデンセットに入ってもスカイサーブを打ち続けた白鳥のセンスが相手の攻撃を封じ込めた。
 日高は話す。「チームの一員として五輪出場を決めることができてうれしい。自分の強打は通用したし、アジアでの勝ち方も見いだせた」と。若手の勢いとベテランの経験が融合し結束した日本チームは、アジアチャンピオンとなりロンドン行きのチケット「1」枚を手にした。

朝日・白鳥「青木と日高の気持ちも背負って戦いたい」

1枠を争ったロンドン五輪男子代表決定戦で朝日(右)・白鳥組が青木・日高組を破り、代表に決まった 【坂本清】

 五輪本番は国別対抗ではなく出場できるのは1ペアのみ。皮肉なことに日本チームとして戦った2組のペアが7月4日の代表決定戦(川崎)で対戦。朝日・白鳥組が2−0で勝ち、五輪出場が決まった。
 朝日と白鳥は口をそろえて言う。「仲間と試合をするのはモチベーションを上げるのが難しかった。青木と日高の気持ちも背負い、4人でロンドンを戦っていきたい」

 世界で24ペアのみが出場できる五輪。アジア予選以上に苦しい戦いになることは間違いない。しかし朝日は常に狙われる状況でも、技術的に難しいネットから離れたトスをボールの通過点の高さを保ったまま打ち切り、アジアのブロッカーに勝利した。また、白鳥は瞬時にコートの状況を把握したセンスと経験値が世界で通用することを改めて証明した。
 ロンドンに向け、白鳥は「アジアは世界から差をつけられている。世界のトップは質の高いフローターサーブを打ち、サーブから崩してくる」と話す。朝日も言う「トップチームは本当にミスが少ない。われわれは追い求めている技術を最高の舞台で出せるかが重要」

 五輪開幕まで残り20日あまり。朝日・白鳥組は9日から米国・ロサンゼルスで合宿し、19日からは国内JBVツアー大阪オープンに参戦。「新しいステージを目指し」(朝日)最後の仕上げを行う。
 北京五輪では決勝トーナメント・ラウンド16で敗退した。果たして4年前を上回る成績を残せるのか。白鳥は「女子ばかりが取り上げられるけれど、自分たちがロンドンで勝ち上がっていけば、きっと代表決定戦のようにメディアが取り上げてくれる。男子のビーチバレーをアピールできるように頑張りたい」。
 目標は常に前進。ビーチバレーの普及のためにも、後退は許されない。

<了>

BeachVolleyballPhotoBook 〜2009〜2012 時代を築いてきた者たち〜

『BeachVolleyballPhotoBook 〜2009〜2012 時代を築いてきた者たち〜』表紙 【写真/ビーチバレースタイル】

ビーチバレーの一時代を築いてきた浅尾美和、西堀健実、浦田聖子、朝日健太郎、白鳥勝浩、西村晃一…。彼ら、彼女たちのシンボルである、砂の上を華麗に舞う肉体美をここに凝縮。男女合わせて1冊の写真集、勝負のシーズンに向けてインタビューも収録。
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著者プロフィール

2009年4月創刊。国内トップ選手の情報、大会レポート、技術指導、トレーニング論など、ビーチバレーを「見る」「やる」両方の視点から、役立つ情報が満載。雑誌のほかに、ビーチバレースタイルオンラインとして、WEBサイトでも大会速報、大会レポートなど、ビーチバレーに関する報道を行っている。

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