不屈のギリシャが挑む「債権者ダービー」=8年前の奇跡は再び起きるのか

長束恭行

攻撃はカウンターとセットプレー

1分け1敗と第2節終了時点ではグループ最下位だったギリシャ。しかし、最終戦で持ち前の粘りを発揮し、グループリーグ突破を果たした 【Getty Images】

 昨年10月初旬、ユーロ(欧州選手権)2012予選のギリシャvs.クロアチアを取材するため、わたしはアテネ郊外の港町ピレウスを訪れた。他の欧州の国々は秋を迎えているというのに、ギリシャの人々は燦々(さんさん)と輝く太陽を満喫し、ビーチで海水浴を楽しみ、オープンテラスで海の幸に舌鼓を打っている。港に近い小さなタベルナ(食堂)に入ると、地元の人々が飲めや歌えやと盛り上がっていた。つい前日には全国的な大規模ストライキが行われ、アテネのシンタグマ広場でデモ隊と治安部隊が衝突。けが人や逮捕者すら出たというのに。

「ギリシャの経済はご覧の通り、決して芳しくないわ。わたしも先日にテッサロニキの新聞社を解雇されたばかり。ドイツの内政介入は何かと厳しいけど、ギリシャ人は楽天的なのよ。とりわけ若い人はそう。この今を楽しまなくてはね!」

 彼氏と夕食に訪れ、隣のテーブルに一人座るわたしを誘ってくれたランブリニ嬢は、まるで他人事のように天真らんまんと語った。恵まれた気候と開放的なムードにどっぷりつかり、浴びるようにアルコールを飲めば、仕事をすることがばかばかしく思えてくる。この国の人生は刹那(せつな)的かもしれない。だからこそ、刹那的なドラマが連続するサッカーに対して、ギリシャ人は情熱を注ぐのだろう。

 ユーロ2004で大番狂わせを起こし、ギリシャ人を歓喜に導いたドイツの名将オットー・レーハーゲルは10年ワールドカップ・南アフリカ大会を最後に勇退。「キング・オットー」の後を引き継いだポルトガル人、フェルナンド・サントス監督はギリシャ・リーグで長く仕事をしているとはいえ、チーム構築は楽な仕事ではなかった。彼はポゼッション・サッカーを信条とするも、予選の初戦となるホームのグルジア戦でよもやのドロー(1−1)。予選突破のため、サントスに残された道は原点回帰しかなかった。ゴール前には鍵を掛け、攻撃はカウンターとセットプレー。そうして予選ではライバルのクロアチアをピレウスで2−0と粉砕し、グループ首位通過を果たしてきた。

劣勢のほうが力を発揮する

 しかし、ユーロ2012のサントス監督には迷いが見られた。昨年11月のルーマニアとの親善試合で1−3と敗れ、監督就任以来の無敗記録が「17」でストップ。その後もふがいない試合が続き、サントス監督は批判の矢面に立たされた。

 一向に解消されない得点力不足を賄おうと、ワルシャワで行われた開幕戦のポーランド戦はつい“色気”を出してしまった。4−3−3の両ウイングを務めるヨルゴス・サマラスとソティリス・ニニスを高く配置し、ドリブルで攻め込みを図るも、インターセプトされた途端に中盤のプレスが掛からず、手から砂がこぼれるようにポーランドにパスをつながれた。

 17分、ポーランドのFWロベルト・レバンドフスキにヘディングシュートをたたき込まれると、44分にはソクラティス・パパスタトプーロスが悪質なタックルにより2枚目のイエローカードを受け退場。絶体絶命のギリシャだったが、彼らは劣勢のほうが力を発揮するチームだ。いや、ギリシャ人そのものが瀕死(ひんし)の状態まで追い込まれないと動かない国民なのだろう。後半からニニスを外し、瞬発力に優れたFWディミトリオス・サルピンギディスを右MFに置いた4−4−1にチェンジ。必然的に攻撃パターンは守りからのカウンターしかなくなるが、サントス監督の選手起用もずばり当たった。

 51分にサルピンギディスが相手のすきを突いて同点弾を決める。69分にサルピンギディスがポーランドのGKボイチェフ・シュチェスニーを退場送りにし、PKを得た。勝ち越しの絶好機だったが、MFヨルゴス・カラグニスのシュートは代役GKシェミスワフ・ティトンがセーブ。最後に勝ちは逃したとはいえ、ギリシャのしぶとさを世に見せつけた開幕戦だった。

 ヴロツワフで行われた第2戦の相手は、ユーロ2004準決勝の復讐(ふくしゅう)に燃えるチェコ。出場停止のパパスタトプーロス、負傷退場したアブラーム・パパドプーロスに代わり、数少ない8年前の優勝メンバーの一人、MFコンスタンティノス・カツラニスを試合開始から最後尾に据えるも、ギリシャ守備陣の立ち上がりの「ブラックアウト」は再び繰り返された。

 3分にペトル・イラチェク、6分にバツラフ・ピラルとチェコがゴールを決めて0−2。左右のウインガーに起用されたサルピンギディスと19歳の新星コンスタンティノス・フォルトゥニスが守備のヘルプを怠ったがため、ピッチをワイドに使うチェコに苦戦。53分に名手ペトル・チェフがキャッチミスしたボールをFWテオファニス・ゲカスが押し込んだが、あと1点届かなかった。「ギリシャは尽き果てた」――サッカー関係者の多くがそう思ったはずだ。開幕戦に続き、カメラのファインダー越しでピッチ際から選手たちを観察していたわたしは、少なくともこの日のギリシャから神通力を感じることができなかった。

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著者プロフィール

1973年名古屋生まれ。サッカージャーナリスト、通訳。同志社大学卒業後、都市銀行に就職するも、97年にクロアチアで現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて退職。以後はクロアチア訪問を繰り返し、2001年に首都ザグレブに移住。10年間にわたってクロアチアや周辺国のサッカーを追った。11年から生活拠点をリトアニアに。訳書に『日本人よ!』(著者:イビチャ・オシム、新潮社)、著作に『旅の指さし会話帳 クロアチア』(情報センター出版局)。スポーツナビ+ブログで「クロアチア・サッカーニュース」も運営

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