ブリスベンで刻まれる“日豪戦”の新たな歴史=アジア最大のライバルとの名勝負数え唄

植松久隆

健全で強固な、アジア最大のライバリー

オジェック監督(右)率いるオーストラリア代表は、“進まぬ世代交代”という大きな課題を抱えている 【Getty Images】

 日豪戦――折に触れてこの表現を多用してきた。今やアジア最高峰のライバル対決に発展した日本とオーストラリアの直接対決をこう呼び慣らすことで、何とか人口に膾炙(かいしゃ)させ、興味を持ってもらいたいという思いからである。

 日本人は、ライバルとしてのオーストラリア代表“サッカルーズ”(同代表の愛称)をどの程度知っているのだろうか。ハリー・キューウェル(メルボルン・ビクトリー)の名前を知っていても、そのキューエルがプレーするAリーグなど、オーストラリア国内のサッカー事情を知る人は決して多くない。

 12日のブリスベン決戦を前に、アジアでの日本の最大のライバルに育った“異端”(本来、地政学上、オセアニアであるべきだから)を、もっと知ってもらいたいとの思いで本稿を書き進める。

 2005年にオーストラリアがアジアサッカー協会(AFC)への転籍を果たし、グリーン&ゴールドのユニホームがアジア・サッカー界の至るところで躍動するようになって、早7年の月日が過ぎようとしている。その間、日豪両国は、ワールドカップ(W杯)・アジア最終予選の場で、2回続けて同組に入り出場権を争っている。常に真剣勝負の場で相対する日豪両国に「健全で強固なライバリー(ライバル関係)」ができるのは半ば必然と言えた。

 09年のW杯最終予選、メルボルンの日豪戦(1−2で日本の敗戦)の試合後にキャプテンのルーカス・ニール(アル・ジャジーラ)の囲み取材をした時のことが忘れられない。オーストラリアにとって日豪戦がいかに重要かをとうとうと語るニールに、「日豪のライバリーはどういうものか」という問いをぶつけた。すると、彼は満面の笑みで“That's a very good question, mate”と筆者の肩をたたいて、日豪両国のサッカーにおける関係性を「健全で強固なライバリー」と表現したのだ。日豪戦ひいては日豪両国のサッカーにおける関係性がそのように育っていくべきだと前々から考えていた筆者は、「我が意を得たり」とひざを打った。

進まない世代交代、豪州の未来は……

 ここで、日豪戦の歴史を少しひも解いてみよう。通算成績は56年の初対決以来19戦6勝6分け7敗とほぼ互角に推移。オーストラリアのAFC転籍後に限定すると、5戦1勝2分け2敗(筆者注・07年アジアカップのPK戦での日本勝利は引き分けとカウント)と、日本がわずかに負け越しているが、日本が12日のブリスベンでの対戦に勝利すれば、完全な五分に戻る。

 直近の日豪戦といえば、李忠成(サウサンプトン)の美しいボレーシュートとその後の弓引きパフォーマンスがまだ記憶に新しいアジアカップ2011の決勝での対戦。わずか1年半前のドーハでの対戦をあらためて振り返ると、日豪両国のスターティングメンバーが、ほとんど直近の試合のメンバーと変わらないことに気づく。

 これはもともと、若手の多い日本にとってはさほど問題にはならないが、主力のほとんどが30歳を超すオーストラリアの場合は軽視できない。オーストラリアが抱えてきた“進まぬ世代交代”という大きな課題に対策を講じる意味でも、この約1年半という時間の経過の持つ意味は大きかったはずだ。

 合理的かつ現実的な感覚を持ったホルガー・オジェック監督のことだから、世代交代の必要性に対して、まったく無為無策だったわけではない。実際、マイケル・ズーロ(ユトレヒト)、リース・ウィリアムズ(ミドルズブラ)、マシュー・スピラノビッチ(浦和レッズ)といった次代を担う20代初めの若い選手たちを定期的に招集。彼らは代表の常連と言っても差し支えない。しかし、そんな彼らからポジションを脅かす存在が出てこない。
 先発メンバーだけで判断すれば、オーストラリアは何年たっても同じ顔ぶれがいるように思えるのはそこが原因だ。それを示す面白い例を引こう。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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