靴作りの名工・三村仁司氏「足を知れば速くなる」=弱点を見つけてシューズで強くする

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「現代の名工」と表彰された靴作りの職人

靴作りの名工・三村氏がシューズ選びのポイントを語った 【スポーツナビ】

 日本が世界に誇る靴作りの職人・三村仁司氏は、これまで高橋尚子、野口みずきら数々のトップアスリートのシューズを手掛け、そのパフォーマンスを足元から支えてきた。2004年には厚生労働省から「現代の名工」として表彰されている。かつてアシックスの社員であった三村氏のキャリアは40年以上を数えるが、靴作りへの情熱は今なお衰えることを知らない。

 09年に定年退職した後、地元・兵庫県加古川市にアスリートを対象としたシューズ作り工房「M.Lab(ミムラボ)」を設立。さらに翌年にはアディダス ジャパンと専属アドバイザー契約を結び、“日本人ランナーを速くするために”をコンセプトに開発プロジェクトをスタートさせた。それから2年が経ち、このほど市販モデルのランニングシューズ「adizero TAKUMI(アディゼロ 匠)」が発表された。

 三村氏の靴作りは、足の測定「アラインメント」から始まる。足の大きさはもちろん、指の長さ、関節の可動域など、細かい数値を徹底的に集め、特徴を洗い出す。ここに長年培ってきた感覚が加わることで、職人技の妙が生まれるのだ。では、名工による世界に一足だけのシューズの作製は、どのような手順で行われているのか。百聞は一見にしかず。ということで、東京・原宿に期間限定でオープンしたミムラボ 東京を訪ねた。

「弱点を見つけて強くする」

三村氏が足のサイズを計測。これを元に最適な一足が作られる 【スポーツナビ】

 ミムラボ 東京に併設された「アラインメントルーム」では、三村氏のアシスタントが慣れた手つきで足を計測していく。特殊な測定器を用い、足の曲がり具合、角度までも入念にチェック。さらには、3D測定機で足の形を立体的に把握する。時間にすれば10分にも満たない。続いて三村氏が登場、本番はここからだ。三村氏は片足ずつ、鉛筆で丁寧に型を取っていく。そして計測が一通り終わると、それらの数値を見ながら、三村氏は関西弁でこう切り出した。

「靴、小さいの履いてます? 最低でも23.5センチを履かないと。つま先が15ミリくらい余裕がないと、すぐに疲れますよ。すねのあたり痛くなりませんか?」

 ちなみに、今回モデルになったのは30代女性のジョガー。ただし、ランニングを始めたばかりの初心者で、レースに参加するほど本格的ではない。走る目的は運動不足解消と健康のため。多くのアスリートにアドバイスしてきた三村氏からすれば、素人もいいところだ。だが、そんな彼女に対しても、三村氏は話を聞く前に足の特徴、またそこからくる疲労度について言い当てた。三村氏の指摘は続く。

「足首が柔らかいですね、特に右足。曲げるのも伸ばすのも両方柔らかい。ゆっくり走る時はええけど、力を入れて走るとねんざしやすくなる。着地した際にオーバーストライドになるし、キックをしたら足がすぐ後ろに流れてしまう。そうすると足の付け根も痛くなりやすい。これではフルマラソンは無理やね。けがや疲労を回避する方法としては、テーピングで足首の可動範囲を狭めるしかないです」

 繰り返しになるが、相手は素人である。本格的なアドバイスをする必要性はない。だが、シューズを作るとなると、助言せずにはいられないのだろう。そこには自身もランナーであった経験からだろうか、少しでも走ることの手伝いがしたい、という親心が秘められている。厳しくも的確なアドバイスの裏には、確かな理由がある。

「基本的な考え方は、弱点を見つけて強くする。それをせん限り、あかんのですよ。そこを教えてあげられる人が少ない。改善されれば疲れにくくなる。そうすると故障しにくくなる。ということはその分、練習ができる。練習できれば速くなるという理論ですわ」

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