クラブライセンス制度とは何か?=2013年導入を目指すJリーグの不退転

宇都宮徹壱

「5つの基準」と「3つの等級」

Jリーグが財務基準について重視しているのは明らか。大分や東京Vを襲ったクラブ存続の危機を繰り返さないという強い意志が感じられる 【Getty Images】

 次に、クラブライセンス制度の概要について見ていくことにしたい。といっても、その項目は全部で56もある(内、必須項目は47)。ゆえに、ここではポイントを絞りながら説明していくことにする。

 まず、この制度は「5つの基準」という縦軸と「3つの等級」という横軸によって構成されている。5つの基準とは「競技基準」「施設基準」「組織運営・人事体制基準」「法務基準」「財務基準」(それぞれの内容については後述)。一方、3つの等級とは「A等級(達成することが必須。達成しなければライセンスが交付されない)」「B等級(達成することが必須。達成しなかった場合は、制裁が科せられた上でライセンスが交付される)「C等級(達成が推奨されるもの。ライセンス交付とは関係ないが、将来的には等級がAかBに引き上げられる可能性あり)」の3段階に分かれている。

 5つの基準について、ざっくりとした内訳は以下の通り。

(1)競技基準:主にアカデミープログラムに関するもの。また、医療ケアやフェアプレーの遵守なども含まれている。
(2)施設基準:スタジアムとトレーニング施設に関するもの。スタジアムの収容人数、バックヤードに関する条項、さらに常時使用できるトレーニングシステムの確保などが求められている。
(3)組織運営・人事体制基準:「一定のノウハウおよび経験、スキルを有するスペシャリスト」として、監督やコーチのほかに、運営、セキュリティー、広報、マーケティング、医師、医学療法士などの人材の確保が求められている。
(4)法務基準:「AFCクラブ協議会出場への宣誓書」をはじめとする法務関連の文書の提出など。
(5)財務基準:クラブ経営について、経済的および財務的能力の向上、さらには透明性と信頼性の追求する条項が盛り込まれている。

 なお(5)の財務基準については、日本独自のルールが適応される。すなわち「3期連続で当期純損失を計上したクラブ」と「ライセンス申請日の前期末決済で、純資産がマイナス(債務超過)であるクラブ」には、いずれもライセンスを交付しないことが明記されている。5つある基準のうち、とりわけJリーグが財務基準について重視しているのは明らかだ。大分トリニータや東京ヴェルディを襲ったクラブ存続の危機は、決して繰り返すまいという強い意志が感じられる。

「クラブをふるいにかけるための制度」ではない

 さて、今回の説明会で配布された資料の中で、非常に興味深い一文を見つけた。「最後に」と題された章の中の一文である。
「クラブライセンス制度は『クラブをふるいにかけるための制度』ではない」
 すなわち、この制度を導入することで得られる効果は「クラブの経営基盤を強化することにより、競技環境、観戦環境、育成環境の強化・充実を図る」ことで、競技力の向上とともに「クラブが、日本のスポーツ文化を成熟させる『社会資本』としての役割を担うこと」であるという。そのためには「Jリーグもサポートや助言を行う」としている。

 確かに、それぞれの基準のハードルは、これまでと比べればかなり高いものに感じられる。3期連続赤字決算や債務超過のクラブには、ライセンスが交付されず、(資料には明記されていないが)場合によってはJFL以下のリーグに降格される可能性もあり得る。とはいえ、資料には「約3年の準備期間があるため、じっくりと時間をかけて財務基盤の整備に取り組むことが可能」とも書かれており、これをある種の「親心」と好意的に解釈することも可能だろう。また達成必須の47項目のうち、B等級は3項目しかないが、それらはいずれも施設基準、すなわちスタジアムに関するものであった(具体的には屋根の設置やトイレの数など)。これらは一朝一夕(いっちょういっせき)に解決できる問題ではないので、ある程度の猶予を与える意味でB等級としているのであろう。

 個人的な見解としては「今のままではいけない」という意味で、クラブライセンス制度の導入は必要であると考える。Jリーグが現状のまま、ブランド力が向上するとはとても思えないし、クラブ経営の透明性を保つことで破たんを未然に防ぐことも重要だ。また、国内市場がシュリンクする中、アジアに市場を求めるのは必定。その意味でも、AFC内でのいち早い制度導入はプラスに働くだろうし、Jリーグの新たなブランディング構築に成功できたなら、アジアで新たな市場を開拓できるかもしれない。いずれにしても、今のままではジリ貧なのは明らかだ。おそらくJリーグも不退転の決意で、このクラブライセンス制度導入に踏み切るのだろう。

 以上を踏まえた上でJリーグには、厳正さと柔軟さのバランスをもって審査に臨んでほしい。40のクラブには、それぞれに地域や沿革の事情がある。放漫経営はもってのほかだが、たとえば震災の影響などやむにやまれぬ事情を抱えるクラブも決して少なくないはずだ。クラブを「社会資本」と考えるならば、そのクラブが「Jクラブでなくなる」ことで、地域やサポーターが被るであろう影響について、審査する人たちは想像力を巡らせてほしい。「クラブライセンス制度は『クラブをふるいにかけるための制度』ではない」という、Jリーグのメッセージを信じたい。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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