愛川ゆず季 女子プロレス大賞受賞記念インタビュー
デビュー1年目で女子プロレス大賞を受賞したゆずポンこと“グラレスラー”愛川ゆず季 【t.SAKUMA】
しかし“グラレスラー”愛川ゆず季の最大の魅力は、その「やられっぷり」にある。2010年10月のデビュー戦で高橋奈苗に「顔面崩壊」をさせられてから、スターダムでは高橋や世IV虎(よしこ)&夏樹☆たいようと激しい抗争を繰り広げ、「ゆずポン祭」ではダンプ松本や堀田祐美子にボコボコにされた。
顔を踏まれ、胸にチョップを受け、ボロボロにされながらもバチバチにやり合う愛川ゆず季。彼女の「グラレスラーとしての哲学」に迫った。
「賞を獲ること」を考えながら1年間頑張ってきた
プロレス大賞授賞式では艶やかな着物姿で視線をくぎ付け 【スポーツナビ】
愛川 ありがとうございます、うれしいー(笑)。
――賞は狙っていたそうですね
愛川 そうですね。去年の表彰式に行かせていただいて、その時に(ロッシー)小川さんはもう獲る気満々で(笑)。でも私としてはまだ1試合しかしてなかったので、2011年にプロレスをどういう風にやっていくかが全然見えてなくて、その時は思ってなかったんですけど。スターダムの旗揚げ戦をやって「ゆずポン祭り2」をやった時ぐらいに「今年はプロレスを頑張ってやろう」って思ったんです。
――そうなんですか
愛川 “グラレスラー”なんで芸能活動とプロレスを両方やって私なんですけど、どっちかに重きを置かないとやっていけないって思いました。プロレスは体も使うし、試合前は緊張するし、ケガのリスクもあるし。普通のお仕事とは違うと思っているので「この1年はプロレスを頑張ろう!」って。頑張った結果として「女子プロレス大賞を獲ろう」じゃなくて「何かの賞に引っかかりたいな」ぐらいだったんですけど(笑)。
――なるほど
愛川 それで目標を立てて小川さんと事務所のマネジャーにしゃべって、1年、考えながらやってきた結果で賞を獲れたので「まさか私が、わあ!」じゃなくて(笑)「獲れてよかったな」っていう気持ちだったんです。多分、何年もプロレスをされてる方は賞の歴史とか価値も分かってるから「狙いに行こう!」なんて思わないと思うんですよ(笑)。私はグラビアからプロレスに入ってきて、あまり女子プロレスを見てたわけじゃないし、どういう賞なのかもよく分かってなくて(笑)。
――その「プロレスをあまり見てなかった」愛川さんがなぜここまでプロレスが出来るのか、どうやって「レスラーとしての感覚」を身につけたのかがずっと不思議でした。今日はその辺りもお聞きしたいと思ってます
愛川 はい、よろしくお願いします
私には「ボロボロになって向かっていく姿」しかない
世間に衝撃を与えたデビュー戦後のボロボロの姿 【茂田浩司】
愛川 あ、本当ですか。
――はい。その時、バックステージで僕が撮った写真が「FLASH」のカラーグラビアになったんですけど
愛川 この写真見ました! 私、「わざわざこの写真を使わなくてもいいじゃん!」ってFLASHさんにメッチャ怒ってました(笑)。
――プロのカメラマンが撮った写真は一杯あったんですけど、編集者が一番インパクトのある写真としてこれを選んだんですよ
愛川 「きっと試合でいい写真が撮れなかったからこれを使ったんだろう」っていうのが小川さんの読みだったんですけど(笑)。計算され尽くした写真だったんですね。
――はい。愛川さんの唇の腫れやあざがよく分かるように、狙って撮った写真です
愛川 そうなんだ……。
――試合後の愛川さんを見て「ここまでやるんだ!」と驚いた気持ちをそのまま写したんですよ。デビューまで半年間のハードな練習は知ってましたけど、まさかグラビアをやってる人がここまで顔はグチャグチャ、体はボコボコにされるとは(苦笑)
愛川 私もここまでボコボコにされると思ってなかったんです(苦笑)。だから、プロレスを知らない人には「当たってないのに痛がるんでしょ」って言われるから、じゃあ私のこの写真を見て、って思いますね(笑)。本当に戦ってるし、本当に痛いし。
――スターダムの新人選手がドロップキックを受けてびっくりした顔をしますね。その表情から「プロレスの痛み」がリアルに伝わってきますけど、愛川さんはそこから高橋選手にやり返しましたからね
愛川 私、あれ以上出来ないです(苦笑)。あの高橋選手との試合があったからこそ女子プロレス大賞が獲れたし、あそこで「プロレスラーの愛川ゆず季はこうです」という自己紹介が出来たんですよね。
――毎回ボロボロになって「相手に真正面からぶつかってボロボロになるのが私」と自覚して試合してるのがすごいと思いました
愛川 だって、私が見せられるところってそこしかないんですよ(笑)。運動神経が特にいいわけじゃないし、技術があるわけじゃないし。じゃあ、どこで見せれるかって考えた時に「向かっていく姿」とか自分が持ってるものをすべて出すしかないんです(笑)。でも、デビュー戦が終わった時は自分では出来たのかどうか全然分からなかったんです。プロレスがどういうものか分からないから、お客さんの反応を見ても「この反応は何なんだろう?」と思ってました(笑)。その後でデビュー戦の評価を聞いて「あ、私の魅力ってそこなんだ」って気づいたんですよ。
やられればやられるほど上がってくるんです(笑)
やられればやられるほど燃えるというゆずポン 【t.SAKUMA】
愛川 そうですね(笑)。
――でもリングに入ったら豹変して、マネジャーさんも「あんな一面があったとは」と驚いてました。お客さんの前に出た瞬間に「スイッチが入る感覚」があるんですか?
愛川 ああ、そういう時も確かにあるんですけど、人間的な部分もあって(笑)。リングに立った時も(テンションが)上がらない時もあるんです。
――え、そうなんですか
愛川 はい。私はスロースターターだと思っていて、やればやるほど上がってくるんです(笑)。男の人なら分かると思うんですけど「今日は喧嘩したくないな」みたいな感情、「試合したくないな」という時もあるんです。いつも試合前はメチャメチャ緊張しますし、試合が始まってもそんな感じの時があるんですけど、殴られたり、やられてやられて、試合の中盤ぐらいから出てくるものがあるんです。……ちょっと説明するのが難しいんですけど。
――試合を見てると分かります。高橋(奈苗)さんや世IV虎選手に髪をつかまれたり胸を踏まれたりすると、活き活きしてきますよね
愛川 そうだと思います(笑)。「そっからが私」だと思ってて、だんだん上がってくるんです。
――ブル中野さんの引退興行「女帝興行」(1月8日、TDCホール)での志田光選手との試合後、不満そうでしたね。「ここから」というところで終わってしまった
愛川 試合の後も全然元気で(苦笑)。高橋選手や世IV虎ちゃんとはもっとガンガンやり合ってるし、もっとやりたかったです。
――スターダムでは「若手に胸を貸す」みたいに見える時もあって、メイクが取れずに試合が終わると「物足りない」と言ってますからね
愛川 いや〜(苦笑)。逆に、そういう試合(若手選手との試合)は本当に難しくて、やっぱりそういう試合は高橋奈苗さんがうまいですよね。それに自分では「出来た!」っていう試合はないんですよ。
――ああ、そうなんですか
愛川 今日は100点だっていう時はないです。いつも家に帰ってから「あそこはこうすれば……」って反省してます……。
――試合後のコメントもおもしろくて、ストレートに本音をぶつけるというか
愛川 はい、本音しか言ってない(笑)。何も決められてることはないので、自由に言わせてもらってますから。
――「グラビアの時は発言も全て事務所のチェックが入ってたけど、プロレスでは発言がそのまま流れるので慎重になる」と言ってて。怖さもありますか?
愛川 怖さも感じてますけど、自己プロデュースが出来るのがプロレスをやってていいなーと思うし、楽しい(笑)。多分、そういうところが好きで、プロレスをやってて楽しい部分ですね、はい。
――「プロレスを学ぶ」という部分では他の選手の試合を見て研究したりはしてますか?
愛川 全くないんですよ。対戦相手の映像を見ることはあるんですけど「この人みたいになりたい」とか研究したりはしたことがないです。自分の映像と、あとはスターダムの他の選手の試合を見るぐらいです。
――そうなんですか
愛川 私も「見た方がいいのかな?」と考えた時期もあったんですよ。でもデビュー戦でやった試合が私は「ザ・プロレス」とは思ってなかったので、評価していただいて「ああ、これで認められたんだから、私は私のプロレスをやれば認めてもらえるんだな」って。新しいものを見せていきたい、私は私のプロレスを見せていきたい、って思ったんです。言葉は悪いけど「プロレスに染まりたくない」っていうのが多分あるんだと思うんですよ。
――「女子プロレスラー」に同化するのではなく『パイレンジャー』で入場して、リング上でグラビアポーズをするグラレスラー、「異色の存在」が自分、なんですね
愛川 そうですね、一歩間違えたら怒られると思うんですけど(笑)そこのギリギリなところもやり続けていきたい。
――スターダムは自由ですよね
愛川 はい、スターダムでは本当に自由にさせてもらってます(笑)。